週末は「農家」の別荘で休息 インド

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO63498900X10C22A8EAC000

 

都市から離れた郊外にスイミングプールや複数の寝室、畑などを備え、週末に自宅を離れて家族や友人とゆっくり過ごす憩いの場所として比較的裕福なインド人が利用する。インドは、来年に中国を抜いて人口最多になり、中間層や富裕層が増えているだけに、今後も需要が広がる見通しだ。

「8月の夏休みは皆で旅行に行きたいね」

「いいね。行き先はどこがいいかな?」

7月24日の日曜日の午前から夜、ソーラブ・バハットさん(41)は、北部ウッタル・プラデシュ州のノイダ地区に所有するファームハウスに友人を招き、家族とともに楽しい週末を過ごした。10人ほどが集まり、大人はビール片手に旅行の計画や最近の仕事の状況を語り合った。子供たちは厳しい暑さを避けてプールで遊んだ。食事はプールのそばで皆でバーベキューをしたり、宅配サービスの料理に舌鼓を打ったりした。

ノイダ地区は首都ニューデリーから車で40分ほど。中心地にはオフィスビルが立ち並ぶが、少し郊外に足を延ばすと田園風景が広がる。緑豊かな畑が続き、未舗装の道路には悠然と牛が歩く。バハットさんのファームハウスは敷地が約2千平方メートルあり、畑では新鮮な野菜も採れる。周辺には同様のファームハウスが数十軒あり、週末には友人らを集めてパーティーを開催する人が多い。

バハットさんは織物関係の製造業の会社を経営し、400人程の従業員を抱える。仕事は日々忙しく、海外に出張することも少なくない。「週末に自宅を離れ、家族や友人と美しい緑のなかでのんびり過ごす時間が欲しかった」と3年前に購入した。価格は約1千万ルピー(約1700万円)。再生可能な粘土を利用して建屋を造り、畑には太陽光パネルを設置した。家族や友人と月に1~2回利用する。

ニューデリー在住の不動産コンサルタントのディーパック・クマール氏によれば、インドでファームハウスが広がり始めたのは2000年ごろのこと。「都市の騒がしさを避け、週末に別荘として使うために自宅から2時間以内で行ける場所が人気」という。ニューデリーのなかでも住宅街から車に乗って数十分で行けるファームハウスのエリアが複数ある。クマール氏は、ニューデリー周辺だけで2~3千のファームハウスがあるとみている。

価格帯は1千万ルピーから8億ルピー程度とみられ、数億円規模の超豪華な物件も少なくない。大規模なファームハウスの持ち主はお祭りの時期に数百人の友人らを集め、DJによる音楽パーティーを開くこともある。もともとインドでは自宅に友人を招くハウスパーティーが盛んで、その延長線上で自然のなかでパーティー生活を楽しんでいるわけだ。ファームハウスには維持管理費も掛かり、それを所有することは社会的なステータスともなる。豊かになりつつあるインドの象徴といえる。

クマール氏は「新型コロナウイルスの感染拡大以降、ファームハウスは住宅として使われるケースもあり、需要が一段と高まった」とも語る。

インドでは20年以降に新型コロナが急速に広がり、世界で2番目に多い累計約4400万人の感染者が発生した。インド政府は20年に強力な都市封鎖(ロックダウン)を導入し、多くの市民が巣ごもり生活を強いられた。だがファームハウスでは都市の密集を避け、自然のなかで家族や友人と穏やかな時間を過ごすことができる。コロナ発生後にファームハウスに生活拠点を移した人もいるという。

国際通貨基金(IMF)によると、インドの1人あたり国内総生産(GDP)は21年に2282ドル(約30万円)とアジア諸国のなかで後れをとっている。ただインドは多民族国家で、地域ごとに発展のスピードが全く異なっており、経済の格差が大きい。

インド準備銀行(中央銀行)の推計では、19年のデリー首都圏の1人あたりGDPは4474ドル。全土平均の2倍にあたり、最も貧しい東部ビハール州の8倍を超える。商都ムンバイや南部ベンガルールなどでも経済成長に伴って、中間層や富裕層が台頭している。ニューデリーなどの都市では街中や新聞紙上にファームハウスの広告が目に付き、価格も上昇傾向にある。

国連の推計によると、インドの人口は23年に14億2862万人と中国を抜いて世界最多となり、50年には16億7049万人に膨らむ見込み。都市の人口密度は今後高まることが確実で、より静かな環境を求めて、ファームハウスを求める富裕層は一段と増えそうだ。