物言う株主出資、ディズニーに圧力 サード・ポイント「配信事業再編を」 巣ごもり反動、成長鈍る

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名うてのアクティビスト(物言う株主)が娯楽の雄に圧力をかける背景からは、インターネット動画配信サービスが転機を迎えていることが浮かび上がる。

 

「成功を確実にするためにより戦略的な経営資源の配分と企業統治体制の変更が要る」。サード・ポイントのダニエル・ローブ最高経営責任者(CEO)は15日、ディズニーのボブ・チャペックCEOに宛てた書簡でこう指摘した。あわせて「相当の分量の株式」を取得したと明らかにした。

日本のセブン&アイ・ホールディングスやソニーグループに非中核事業の分離を迫ったサード・ポイントがディズニー経営陣に圧力をかけるのは今回が初めてではない。米メディアによると、2020年に9億ドル(約1200億円)相当の同社株を取得している。その後、全株売却に踏み切ったが、改めて同規模の株式を購入したもようだ。

もっとも、狙いは異なる。2年前は配当を中止して動画配信サービスへの投資を増やすことを求め、ディズニーも19年に立ち上げた「ディズニー+(プラス)」の拡大を優先した。その結果、22年4~6月期の会員数は前年同期比31%増の1億5210万人に増え、スポーツの「ESPNプラス」など傘下の配信サービスの会員数を単純合算すると先行した米ネットフリックスを上回った。

だが、動画配信サービスは新型コロナウイルスの流行に伴う「巣ごもり消費」の反動で成長が鈍化し、景気の減速感が強まっていることを背景に消費者の財布のひもも固くなっている。米コムスコアによると米国の家庭は今年3月時点で平均5.4種類の配信サービスと契約しており、さらなる成長は難しいとの見方が増えてきた。

こうした変化を背景に、サード・ポイントはディズニーにコスト削減による収益改善を迫っている。さらに米メディア大手のコムキャストと共同出資する「Hulu(フールー)」の運営会社を早期に完全子会社化してディズニー+と統合することを要求。収益性が高い北米で事業基盤を固めることを求めた。

スポーツの放映権料が高騰していることも事業構造の見直しを迫られている背景にある。米アップルは今年から毎週金曜日に動画配信サービス「アップルTV+」を通じて米大リーグの試合の放映を始めた。米アマゾン・ドット・コムもスポーツの放映に力を入れ、資金力の高いIT(情報技術)大手などの参入により放映権料はうなぎ登りだ。

ディズニーは傘下にスポーツ専門局のESPNを抱え、人気コンテンツは放送事業を下支えする役割を果たしてきた。さらにESPNプラスを立ち上げて動画配信サービスの強化にも活用したが、サード・ポイントは放映権料の高まりで投資負担が重くなるとみて分離を求めた。

米国では今月初旬、運営会社の経営統合を受けて、映画やドラマを流す「HBOマックス」と、ドキュメンタリーなどを主力とする「ディスカバリー+」もサービスを一本化することを決めた。今後、市場の成熟化と競争激化が進めば、こうした再編による規模拡大が活発になる可能性がある。

動画配信サービスの運営企業は再編で提供コンテンツを増やせば消費者をつなぎとめやすくなり、単価の上昇も見込める。一方、消費者にとっては興味のないコンテンツの「セット購入」にもつながりかねない。市場の早期の成熟は動画配信サービスの使い勝手が悪くなるリスクもはらんでいる。