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漂流する入試(3)公立高に塾が「出前」 学校、問われる存在意義

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO63498130X10C22A8MM8000/

 

生徒の意欲や高校での学習・活動の成果を丁寧に見極める大学入試の総合型選抜(旧AO)や学校推薦型選抜で、本来無縁なはずの「対策」が広がっている。

総合型と推薦型が拡大する中、志望理由書の書き方講座などを提供する塾・予備校が急増した。「定員100人の早稲田大国際教養学部AOで61人合格」などと今春の実績をアピールする塾もある。

1997年の中央教育審議会答申は「高校以下の教育を受験準備に偏らせてしまう」と従来入試の問題点を指摘。AOなどの推進をうたった。それから20年余り。AO後継の総合型なども「受験準備」が横行するようになり、当初の理念はかすんだ。

入試の変化に巧みに適応する塾。多くの子どもが学校と並行して塾に通う「ダブルスクール社会」はポスト偏差値の時代も変わらない。2018年度の文部科学省「子供の学習費調査」によると、学習塾代の支出がある家庭の割合は公立校の中3がいる家庭で80%、高3で42%に上る。

 

働き方改革影響

 

「助動詞はぶっちゃけ暗記事項。覚えて攻めれば、すぐ終わります」。7月の土曜日。東京都世田谷区の都立松原高校の教室で城南進学研究社(川崎市)のベテラン講師が教えていた。同校が今年度始めた「受験英語講習」だ。

各学年の希望者を対象に年15回の授業を有料で用意する。佐藤和彦校長は塾との連携について「学力保障、教員の研修に役立ち学校のPRにもなる。教員の働き方改革が求められる中で一つのやり方だ」と話す。

こうした「校内予備校」は公立私立を問わず増加中だ。リソー教育は10年から事業として始め現在は子会社が82校に講師らを派遣する。以前は中堅校が多かったが上位校の導入例も出始めた。少子化で入試のハードルが下がり高校生の学力差が大きくなる一方、教員の補習の負担は増やせない状況が公教育への塾の浸透を加速させている。

高校の進路指導は既に塾が提供する模擬試験や合否予想のデータなしには成り立たない。「複雑化した今の大学入試は情報戦。教員が教科指導の片手間に進路指導をするのは無理」と関西圏の私立高校経営者。

河合塾が16年に提供を始めた高校生の能力や職業適性を可視化するテストは今では約600校が採用し年19万人が受ける。都立日比谷など有力校も導入した。

 

失われる緊張

 

矢野経済研究所の予測によると、日本の学習塾・予備校市場は1兆円弱の規模を維持しているが少子化で将来は不透明。進学情報、放課後補習などへの学校の需要は塾にとっても命綱で、営業攻勢を強める。

学習塾を研究対象にする高千穂大の早坂めぐみ准教授は「かつてあった学校と塾の間の緊張関係が失われている」と指摘する。「学校だけで教育が完結する時代ではないが、どこまでが学校の役割なのか、しっかり考える必要がある」

進路指導は生徒と日常的に接し、学力も性格も知る教員の仕事のはず。安易な外注化が進めば学校の必要性が揺らぐ。連携協働の時代だからこそ、学校は自らが責任を負う範囲を主体的に決めなくてはならない。