人生100年を考える3 若手に迷惑をかけない

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大学卒業後就職して以来、旧住友銀行(現三井住友銀行)副頭取など要職を務めた後、「新たな領域に若い人と取り組むため」に踏み出した。

 

原点は50代前半に赴任したロンドン。普通と違う人を認める現地の文化に触れ価値観が揺らいだ。社会的な影響がある事業として、安全な大型リチウムイオン電池の開発に行き着いた。

会社の立ち上げには巨額の資金が必要だったが、古巣に支援は頼まなかった。「部下だった方々に頼むのは迷惑がかかる」からだ。大和ハウス工業や東レなど事業に共感する企業からリスクマネーを自ら引っ張った。

若い社員には銀行員時代と異なる姿勢で接するようになった。命令に従わせるのではなく、自由な企業風土のなか各自の個性を伸ばすよう心がける。

人生100年時代が迫る。年金が受給できる年齢になっても働き続けることは日常の風景になるが、高齢者が経営層に居座り続けるなら若手の活躍の機会を奪いかねず、成長の足かせにもなる。吉田は新天地を自ら創ることで、世代交代と自らの活躍の両立を選んだが、まだこうした動きは限られる。

経営者は高齢化している。帝国データバンクによると、全国の社長の平均年齢は2021年に60.3歳だった。調査を始めた1990年の54.0歳から6.3歳上がり、31年連続で過去最高を更新した。この流れは今後一段と強まる可能性がある。

同社情報統括部の部長の上西伴浩は「高齢者が経営者にとどまり、若手へ引き継ぎができないと、変化を捉えた柔軟な対応が難しくなる」と懸念する。

20年に東証マザーズ(現グロース)市場に新規上場したビートレンドの創業者の井上英昭は後継者育成に頭を悩ます。年齢は60歳と高齢ではないが、株式市場には「IT(情報技術)企業としてはトップが高齢で成長性も見込みにくい」と判断する投資家もいる。会社は着実に成長しているものの、後任選びを考える日々が続く。

人生100年時代に向け会社の在り方をどうつくっていくか。働き手のやる気をそぐようなことにならないか。株主の信認は得られるのか。きれい事だけではすまない。新しい時代に対応した仕組み作りはまだ緒についたばかりだ。