このほど刊行の「嫌いなら呼ぶなよ」(河出書房新社)は、その系譜を引き継ぎながらも新境地を開いたといえよう。4つの短編全てが「好き放題する小悪人」の話だ。
整形をいじられ突拍子もない方法で復讐(ふくしゅう)する会社員、ユーチューバーに入れ込むあまり誹謗(ひぼう)中傷に励む癒やし系女子、丁寧なメールで相手を罵倒する作家「綿矢」など、「自分を解き放つ性根の悪い人」が続々登場する。表題作は不倫に罪悪感を覚えない男性が妻の友人たちに問い詰められる物語だ。「社会的に不適合であるから、(登場人物たちは)壁にぶちあたる。でもふてぶてしさはこれから必要な強さなのでは」と笑う。「暗黙のルールが増えているなか、『どのくらい』空気を読むかがスキルになる」
かような人物に興味を持ったきっかけは長引く新型コロナウイルス禍だという。ストレスフルな生活に「全員が罪悪感と戦いながら、なじんでいる」とき、迷いなく自分軸に基づいた行動を取る人がいる。自身はひと目を気にするだけに「葛藤がなく楽しそう」に見えた。
「コロナは日常を完全にむしばんでいる。書くことはたくさんある。今しか書けないことがある」と力を込める。「歴史的な事件があったとき、体験した人が同じ時代に書き取ること」に価値を見いだす。「たとえばバブル時代の好景気の小説を読むと、ただ豊かなだけではなかったと伝わってくる。そういう小説を書きたい」(わたや・りさ=作家)

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