· 

漂流する入試(1)偏差値時代、終幕の足音 大学「推薦・総合型」が過半に 入学後の指導、重み増す

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO63430360V10C22A8MM8000/

 

明治大は2026年、42年ぶりに系列校を設ける。中高一貫校の「日本学園」(東京・世田谷)だ。吉田茂元首相が出た伝統校だが近年は中学入学者が定員を下回っていた。来年の中1が高校を出る29年に7割が明大に推薦で入る体制を目指す。

 

囲い込みが加速

 

従来型の一般選抜(一般入試)で10万人超が志願する明大。定員の7割は一般入試だが、他の有力大がその比率を下げる動きに危機感は強い。渡辺友亮副学長は「10年後に受験生が激減してから系列校化に動くのでは遅い」と話す。

大学が付属・系列校や指定校からの推薦などで入学者を年内に「囲い込む」動きが止まらない。その分、入学定員に占める一般入試の比率は減る。

教育情報サービスの大学通信によると22年春は早稲田大が56%で02年比16ポイント低下、慶応大も57%で同7ポイント下げた。付属校新設や系列校化は中央大や青山学院大、関西大なども進めた。

面接などで選考する総合型(旧AO)の増加も囲い込みを加速させる。全国の大学でのAOと推薦による入学者は00年度に33.1%だったが、21年度は50.3%で初めて半数を超えた。私大は20ポイント増の約6割だ。

高校も年内入試に活路を見いだす。横浜女学院中高(横浜市)は高3約100人に対し大学の指定校推薦の枠を400人分以上そろえる。銀行出身の井手雅彦副学院長が私大を回り、中堅大以上だけでも10年間で5倍に枠を増やした。「指定校推薦を増やすことが生徒募集の強みになる」

受験生も一発勝負の一般入試より、早めに合格できる年内入試を選ぶ。一般入試で複数校を受けるより推薦1校で決まれば受験費用も安く済む。

 

68%第1志望へ

 

リクルート進学総研が今春、約1万1千人を対象にした調査では第1志望の大学に入れた受験生は68.3%で、前回の19年より14.8ポイント増えた。年内入試が主流になれば一般入試の難易度を示す偏差値は意味を失う。小林浩所長は「大学選びの軸が偏差値しかない時代ではなくなった」と語る。

明治維新後や敗戦後の「欧米に追いつけ追い越せ」だった時代は、必ずある正解に早く到達できる能力を競わせる一般入試が有効だった。

だが日本社会が成熟し、欧米のお手本に頼れない時代には、正解があるかどうかも分からない問題に取り組む力が重要になり、思考力や学習への意欲を多面的に評価する入試への転換が求められるようになった。

総合型の定着で状況は改善されたが、新たな課題も浮上した。有力私大幹部は「総合型の受験生が増えるにつれて丁寧な選考ができなくなり、学力不足の学生が増えた」と明かす。21年のベネッセ教育総合研究所の調べでは40%の学生は入学後に高校段階の補習を受けていた。

問われるのは入学後の教育だ。大学を標準年数で卒業する比率は17年で米国38%、フランス41%、英国72%、ドイツ80%。日本は93%で「卒業が簡単」と皮肉られてきた。これまでは「代わりに入試は厳しい」と反論できたが、入るのも出るのも易しい状況が広がる。

米国の大学でも教えた柳沢幸雄・東京大名誉教授は「一点刻みの選抜が権威を持つ時代の終わりは歓迎すべきだ」とする一方で危機感を示す。「社会や企業は求める人材像を明確に示し、大学は厳しい出口管理で学生を鍛えなければ日本の成長はない」