熱中症、三大都市ドーナツ化 搬送者、足立区は千代田区の6倍 高齢化・交通の便が影響か

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO63422370T10C22A8EA1000/

 

東京23区は最少の千代田区と最多の足立区で6倍の開きがあるなど、熱中症のリスクは「ドーナツ地帯」が高い。周辺区は高齢者の割合が高く住居内で熱中症にかかるケースが多いほか、交通の便が悪いため外出時に暑さを避けることが難しいなどの環境面が影響しているとみられる。

 

東京23区と大阪市、名古屋市を管轄する消防当局の協力を得て、5~9月に発生した熱中症の救急搬送者数データを入手。昼間人口(2020年)を用いて21年までの5年間の10万人あたりの平均搬送者数を算出した。その結果、東京23区は31.1人、大阪市は41.5人、名古屋市は46人となった。

区ごとの搬送者数をみると、東京は足立区(57.4人)をはじめ葛飾、北、荒川、練馬など北部や東部にある9区で40人超。一方、中心部の千代田区(9.3人)や中央区(10人)、港区(11.1人)は少なく、足立区は千代田区の6倍の発生率だ。

大阪市の最多は西成区(127.8人)で、最少の中央区(16.9人)の8倍。ドーナツ地帯にリスクが潜む構図は東京と同じで、中心部から離れた此花、鶴見などの6区で60人を超える一方、中央区に次いで少ないのは北区(21人)、西区(21.8人)だ。

名古屋市は南西部にある港区が64.2人で、中心的なビジネス街や繁華街のある中区(26.6人)との差は2倍にとどまるが、北区(58.3人)や南区(56.2人)など13区で40人を超えた。

ヒートアイランド現象は地表面の状態や人工排熱の影響で都市の中心部ほど暑くなるとされるが、熱中症の発生率は中心部の方が低い結果となった。

熱中症の発生要因は気温だけでなく、湿度や暑さへの耐性、エアコンの使用状況など複雑に絡む。平均搬送者数が多い区で昼間人口に占める高齢者の割合をみると、東京の足立、葛飾、北区などが約3割、大阪の西成区が約4割と他区に比べ高かった。

発生場所の内訳は各都市とも住宅が4割で最多だ。道路が続き、東京が3割、大阪と名古屋が2割を占めた。道路を含む屋外でのリスク要因を分析したところ、周辺区の特徴を表し、搬送者数の多さと関係が深い指標の一つとして浮かんだのが、面積あたりの駅の数の少なさだ。

東京で搬送者の多い9区は1平方キロあたりの駅の数が江戸川区(0.2駅)など5区が1駅未満なのに対し、千代田区は5.5駅、中央区は3.2駅。大阪市の西成区は2.2駅だが、此花や鶴見区などは1駅に満たず、中央区(3.8駅)との差が大きい。名古屋市も中区は2.4駅だが、港区を含む13区は1駅未満だ。

公共交通機関が充実していると屋外で歩く距離が短いほか、駅周辺には商業施設や地下街などもあり涼をとりやすい。一方、周辺区で駅から遠い住宅街だと日陰も少なく、炎天下で長時間の移動を余儀なくされる。

東京都立大学の藤部文昭特任教授(気候学)は「東京の搬送者数は高温の内陸部と比較的涼しい臨海部で大きな差がなく、大阪と名古屋では臨海部で多い傾向がみられる。自然要因だけでなく、生活環境などの社会的要因も大きく関わっているのではないか」とみる。

大阪公立大学の生田英輔教授(防災工学)は「熱中症は一番身近な気候災害だ。まずリスクが高いエリアを認識したうえで、個別の対策を急ぐ必要がある」と指摘する。

(都市問題エディター 浅沼直樹、矢野摂士、朝田賢治)