https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF12CS90S2A710C2000000
従来はロボットの周囲で安全性を確認する人員が必要だったが、日本で初めてこの人員を配置しない無人走行が許可されたほか、7月末には野外イベントでビールを運ぶデモ走行も実施した。他社との連携も進め、配送やイベント活用などのサービスにつなげる。
屋外催事で初走行
パナソニックHDが開発した「ハコボ」は幅65センチ、長さ115センチと小ぶりで、時速4キロ程度で約3時間走行できる。前輪は横回転もできる特殊な車輪を搭載し、小回りが利くのが特徴だ。
「大阪・関西万博など他のイベントでも見てみたい」。7月末に大阪駅近くで開いた自社技術などを展示する催事では、屋外イベントとして初めてデモ走行を披露した。売店で注文した瓶ビールを数メートル離れた座席まで運ぶ簡易的なサービスだったが、利用者からは好意的な声が上がった。

ハコボは同社の工場跡地を再開発した「藤沢サスティナブル・スマートタウン」(藤沢SST、神奈川県藤沢市)内で20年から実験を続けてきた。改良を重ねながら21年夏には4台まで車両を増やし、走行実績を積んできた。
これまでボトルネックとなってきたのが、法令で設置が義務付けられている「保安要員」だ。危険な場合に助けに入る保安要員を付近に配置する必要があるため、柔軟な運用ができず、コスト増の要因にもなっていた。
一方、4月に国土交通省などからこの保安要員を配置しない完全な無人走行の許可を取りつけ、藤沢SSTですぐに走行させた。走行距離が1200キロに達し、立ち会い審査した神奈川県警などからもお墨付きを得たためだ。

パナソニックHDによると、日本国内でこの許可を取りつけたのは同社が初めて。ハコボに搭載したカメラの映像を通じ、遠隔から安全性を確認する。2人でハコボ4台を同時に監視できる。
他社との連携進む
5月からは付近の店舗からパンを配送するサービスを始め、別店舗からもスイーツを届けるなど対象店舗や品物を順次、増やしている。同社の技術部門の藤川大主幹技師は「大きな一歩。やっと本格展開できる面白い段階に入った」と話す。
今後は他拠点展開を広げたい考えだ。完全な無人走行を240時間こなして国交省と警察から許可を受ければ、他拠点で実証を始める際も保安要員が不要になる仕組みがあり、まずは藤沢SST内で走行を重ねる。22年夏中にも規定時間に達する見込みだ。
他企業への提案も進める。5~7月には西友や楽天グループと協業し、茨城県つくば市の店舗の製品を自宅まで届けるサービスも実施した。同サービスは保安要員が必要だったが、今後は遠隔監視と組み合わせて実験を行いたい企業への提供も進める。
今後はパナソニックHDならではの独自色を出せるかが課題となる。新型コロナウイルス禍もあって宅配量が増える中、人手不足を補う手段として宅配ロボットへの期待は高まっている。日本郵便などと連携して実証実験に取り組んでいるZMP(東京・文京)やホンダなど大手も開発・実証を進めている。
スタートアップも参入相次ぐ
配送ロボットに取り組んでいるのは物流企業やメーカーだけではない。
玄関先に荷物を届ける「置き配」専用バッグを手掛けるスタートアップのLOMBY(ロンビー)も配送ロボット「ロンビー」を開発した。東京都のプロジェクトとして、JR東日本子会社や三菱地所などと実証に取り組む。将来的には大規模マンションの配送ロボットとしての活用を想定している。

敷地内に専用の宅配ボックスを設置し、配達員が届けた荷物を住民の玄関先に届ける。エレベーターなどは機体に搭載した赤外線を使って操作する仕組みだ。宅配業界の人手不足は深刻で、ロンビーの内山智晴社長は「配送にかかる時間の短縮につながる。効率的な配送網の実現に貢献できる」と力を込める。
ウーバーイーツも食品以外の配送も手掛けるなど競争は激しい。パナソニックHDはシステム開発や映像処理、IoT家電との連携などの強みを生かし、ラストワンマイル競争を勝ち抜く考えだ。
(平嶋健人)

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