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景気下支えを目的とする日銀の大規模緩和の副作用で、ひとたび金利が上昇に転じれば、利払い負担の増加で経済に強い下押し圧力がかかる可能性が高い。将来の金融政策の正常化に備え、企業の収益力強化や国の財政再建を進めていくことが急務となる。
民間企業が抱える債務は不良債権問題が深刻だった2000年3月以来の高い水準にある。3月末時点での民間企業(金融機関除く)の借入残高は簿価ベースで前年同期比1.6%増の469兆円で、2四半期連続で前年同期を上回った。
債務が膨らんだのは、政府が新型コロナウイルス禍で企業の資金繰りを支援したためだ。実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)の実行額は21年末に約42兆円と、1年前から3割強伸びた。
第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは15~19年の名目国内総生産(GDP)の推移などから適正な規模を超える企業の「過剰債務」を試算した。その結果、「過剰債務残高は約47兆円(21年平均)に達した可能性がある」と指摘する。
問題は金利の負担だ。ゼロゼロ融資は金利分を国や自治体が肩代わりするが、実質無利子期間が終われば企業に金利負担が生じる。超低金利環境が長続きすれば負担は大きく膨らまないが、金利が上昇に転じれば企業にとって打撃となる。
倒産はすでに増加の兆しを見せている。特に人手不足が深刻な運輸業や建設業の資金繰りが悪化し始めており、東京商工リサーチの調査によると、7月の全国企業倒産件数は494件と前年同月比4%増えた。前年比で増加するのは4カ月連続だ。燃料価格の高騰が幅広い業種の企業経営に追い打ちをかけている。新型コロナウイルス感染症を受けた資金繰り支援策の効果も薄れ、中小の倒産が今後も増える可能性がある。
財務省の法人企業統計調査によると、金利変動の影響を受けやすい短期借入金の3月末の残高は約176兆円。仮に金利が1%上昇すれば、単純計算で1.8兆円の利払い負担増となる。金融庁幹部は「重い債務を抱えた企業にとって利払いは負担。新規融資も受けづらくなり、中小の倒産急増の引き金となる可能性がある」と指摘する。
「過剰債務」は国も同じだ。コロナ対応にかかる費用がかさみ、3月末の普通国債残高は1000兆円規模に膨らんだ。財務省の試算では、金利が想定より1%上昇した場合、25年度の元利払いの負担は3.7兆円増える。GDP比の公的債務残高が200%を超え、日本の財政運営はすでに綱渡りだ。
家計の3月末時点の借入残高は時価ベースで前年同期比1.8%増の357兆円となった。この10年で毎年増加しているのは、低金利を追い風に住宅ローンの貸し出しが増えたためだ。住宅金融支援機構によると、同社の調査に回答した住宅ローン利用者のうち73.9%が政策金利に連動して金利が変わる変動型の契約という。
それだけに利上げは家計の負担増に直結する。日銀が06年に短期金利をほぼゼロに誘導する「ゼロ金利政策」を解除した際は、住宅ローンの変動金利と連動しやすい短期プライムレートが0.25%上昇し、各社が住宅ローン金利を引き上げるきっかけになった。
住宅ローン比較サイト「モゲチェック」を運営するMFS(東京・千代田)によると、金利が1%上昇した場合、家計全体で1.1兆円の負担増になるという。現行金利下で返済プランを立てた家計の出費が想定外に膨らむ可能性がある。
外国為替市場では日米の金融政策の方向性の違いを背景に歴史的な円安水準にある。物価高への不満から、日銀に金融緩和の縮小を求める声も高まりつつある。
日銀は「企業収益が伸び、賃金が上昇するなかで物価も上昇する好循環」(黒田東彦総裁)が見通せるようになれば、金融緩和の出口を探る構えだ。そのときにショックが広がらないように、利上げに耐えられる成長力のある経済に作り替えていくことが必要となる。


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