[FT]高級ワイン、インフレに強い「資産」として人気に

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世界最大手の高級ワイン商社、英ボルドー・インデックスが、売れ行きの急伸に祝杯を挙げている。加速するインフレのヘッジ(回避)目的で、投資家がこぞって希少なビンテージワインを買い求めているからだ。

 

ボルドー・インデックスの2022年1~6月期の売上高は8000万ポンド(約130億円)と、前年同期比37%増加した。このまま行けば、通期で21年12月期に記録した過去最高の1億2600万ポンドを上回る公算が大きい。

ネット上での取引が大幅に増加

増収の主なけん引役となったのは、同社自らネット上で運営するワイン取引プラットフォーム「ライブトレード」だ。22年1~6月期にライブトレードでの売上高は前年同期比53%増となった。

ライブトレードでは600本以上のビンテージワインが取引され、2019年産のトスカーナワイン「ティニャネロ」(6本で約650ポンド)から、2012年産のシャンパン「サロン・ル・メニル」(12本で1万3000ポンド)、2018年産のボルドーワイン「シャトー・ペトリュス」(12本で5万4000ポンド)まで、値段はさまざまだ。

ボルドー・インデックス創業者のギャリー・ブーム氏は「資産クラスとしてのワインとウイスキーにこれほど関心が高まったことはない」と話した。投資家の間では、欧米で10%に迫るインフレ率より高いリターンが求められている。英イングランド銀行(中央銀行)は4日、年内に国内の消費者物価指数(CPI)上昇率が13%に達する見通しを明らかにした。

ライブトレードのマシュー・オコネル最高経営責任者(CEO)は「こうした商品を飲む人も引き続きいるが、インフレに強い実績が証明されているハードアセット(現物資産)としてのワインの価値がどんどん知られるようになっている」と語った。

リターンは美術品やコイン以上

英不動産大手ナイト・フランクが算出する「ラグジュアリー(高級品)投資指数」によると、21年は「パッション投資」(投資家自身の関心や情熱が向かう非伝統的資産への投資)の中で高級ワインのパフォーマンスが最も高く、平均リターンが年率16%と、美術品やコインを上回った。

「供給に限りがあり、時間の経過に伴って質が上がり続けるうえ、購入を希望する裕福な消費者がこれまでにないほど増えている」とオコネル氏は話した。

ボルドー・インデックスのライブトレードで行われる取引は年間5万件前後に上る。同社は具体的なユーザー数を明かさず、「数十万人」との説明にとどめたが、21年だけで30%余り増えたという。

高級シャンパン「ボランジェ」を展開する仏ソシエテ・ジャック・ボランジェは5月、ボルドー・インデックスの少数株を買い増した。かつて金融仲介取引大手の英ICAP(現NEXグループ)でブーム氏の上司だったマイケル・スペンサー英上院議員(保守党)は、ボルドー・インデックスに20%出資し、会長を務めている。

「バブルではない」との見方も

オコネル氏は、個人投資家の関心の高まりと、一般消費者の苦境を物ともしない高級品の好調により、希少価値のある高級ワインの市場は向こう数年にわたって「活況」が続くとの見方で、「バブルではない」と強調した。

しかし、そこまで強気な見通しばかりではない。高級ワイン相場のデータベースを提供する英ワイン・オーナーズのマイルズ・デービス氏は「インフレヘッジ策としてワインを購入する富裕層は多いものの、中間層は『生活費の危機』で余裕がなくなり、手を引く人が増える可能性がある」と指摘した。

7月には、2017年産のシャンパン「シャンパーニュ・アベニュー・フォーシュ」(マグナムボトル)が、ラベルに使われたイラストの知的財産権などの非代替性トークン(NFT)付きで売りに出され、250万ドル(約3億4000万円)という過去最高値でイタリアの投資家2人組に買われた。

フィナンシャル・タイムズ(FT)は7月、英アードベッグ蒸留所で作られた希少なスコッチウイスキー1樽(たる)が1600万ポンドでアジアの個人収集家の手に渡ったと報じた。この取引額は、わずか数カ月前に更新されたばかりだった世界最高記録の100万ポンドを一気に超えた。

「おしなべて見れば、ワイン市場は落ち着いており、今後数年間に心躍らせる展開ではないかもしれない」とデービス氏は語る。「ワイン市場には明るい材料が必要だ。好況時にのみ投資を楽しめる場所であり、多くの人々にとって今はよろしくないという状況だ」

By Oliver Barnes