https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB012QS0R00C22A8000000
不要な口座やカードはさっぱりと断捨離したつもりでも、思わぬ取りこぼしが残ってしまうことがある。財産整理のプロが注意を促すのが、①デジタル資産②残高が0円など少額の口座③端株――の3つだ。
まずはパソコンやスマホなどに記録されているデジタル資産。デジタル資産は、ネット銀行やネット証券の口座、電子マネー、暗号資産(仮想通貨)など経済的価値を有するものから、写真や動画、SNSのデータなどまで多岐にわたる。
ネット完結型口座は相続財産から漏れやすい
MUFG相続研究所所長の小谷亨一さんが注意を促すのは、取引報告書や運用報告書などが郵送されず、取引の全てがネット上で完結されてしまうタイプの口座。近年は高齢者の利用も増えており、三菱UFJ信託銀行が2021年に実施したアンケートでは、70代以上でも半数を超える人がこうした口座を利用していると回答した。
ネット完結型の口座がトラブルになりやすいのは、本人が教えない限り家族が取引していることに気付かず、相続が発生した際に相続財産から漏れてしまいかねないからだ。
一定期間利用がないとしても原則として金融機関の方から契約者に問い合わせることはないため、契約者が亡くなるとネット口座はそのまま放置されることが多い。暗号資産やレバレッジを利かせたFX(外国為替証拠金)取引などを行っていた場合、後になって税務署から巨額の追徴金を請求される可能性もある。
小谷さんは、「親がこうした口座を利用しているなら、取引先やIDも分かるようにしておいてもらう必要がある」と指摘する。エンディングノートやIDとパスワードの管理帳のようなものでもいいし、紙に書いて貸金庫に入れておくという方法もある。
断捨離で忘れがちなものの2つ目が、残高のない「0円口座」などの少額預貯金口座。たとえ預貯金口座から全額を引き出したとしても、解約の手続きをしない限り、口座は生きている。引き出しで口座じまいをしたつもりでいると、相続が発生した後、家族に迷惑を掛けることになる。

0円口座は相続人が解約すると"赤字"に!
口座を解約する場合、生前に本人が行うのと死後に相続人が行うのとでは雲泥の差がある。本人であれば、通帳と届け出印を持参すれば比較的簡単に解約できる。通帳や届け出印を紛失していた場合も、速やかに再発行・再登録もしくは解約の手配をしてもらえる。
だが相続人の場合は、被相続人の戸籍謄本や相続人全員の印鑑証明書を取った上で、相続手続依頼書などの必要書類と一緒に金融機関に提出する必要がある。金融機関によっては、遺産分割協議書の提出を求められることもある。0円口座は通常手続きに比べて簡易だとしても手間はかかる。また、手続きに必要な公的文書の手数料の分だけ"赤字"になってしまう。

海外口座の相続手続きは3年近くかかることも
海外で開設した口座を放置していた場合も、相続が発生すると厄介なことになる。米国を例に取ると、一般に「プロベート(検認)」という手続きが必要になる。そのプロセスは次のようなものだ。
被相続人の財産はいったん、「エステート(遺産財団)」に預けられて、裁判所の任命を受けた弁護士などの「パーソナルリプレゼンタティブ(人格代表者)」が管理する。パーソナルリプレゼンタティブは遺言書の有無を調べて相続人を割り出す。負債があればそれを返済して、相続税の申告と納税を行う。この後でようやく残った財産を相続人に分配する。小谷さんによると「相続発生から全てが終わるまで通常1~3年かかる場合が多い」という。
放置されやすい財産の3つ目が「端株」だ。端株は、株式分割などで生じた1株未満の株を指す。「信託銀行では故人の財産調査を請け負った際、上場株式等は証券保管振替機構(ほふり)に照会などを行う。その際、端株が残っていたというケースが意外とある」と小谷さんは指摘する。
相続時に発見される端株の多くは、09年に株券の電子化が行われた際、電子化されずに証券会社の口座に移管されなかったものだという。端株が見つかった場合、残高証明書を取って解約するなど、新たな手続きが必要になる。
ほふりに問い合わせをしなくとも、親が元気なうちに端株の有無を確認しておくことは可能だ。例えば、端株にも配当が付くため、配当を出している銘柄であれば、配当金計算書と株式残高証明書の株数を比較すれば端株があるかどうかが簡単に分かる。
親と一緒に確認し、見つかった場合は、証券会社を通して発行会社に買い取り請求をするなど早めに対処しておこう。


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