https://www.nikkei.com/article/DGKKZO63161020T00C22A8EE9000/
中央銀行デジタル通貨(CBDC)を使う世界では、お店で買い物をするとき、現金と同じように支払いと同時に着金できる。決済効率が上がり、お店側の資金の流動性が高まる。利用者にとっても送金などの費用が安くなることが期待できる。
新興国だけでなく、欧米も導入にアクセルを踏み始めたCBDC。日銀も現在、実証実験を進めている。第1フェーズでは発行や流通といった基本的な機能を検証し、4月に始まった第2フェーズでは自動送金予約などのサービスが機能するか検証する。早ければ来年度にも、民間事業者や消費者らが参加する最後の第3フェーズに入る。
日銀はCBDCについて、全ての機能を中銀が提供するのではなく、中銀と民間による「二層構造」を想定する。日銀は現金のやりとりを電子に置き換え、インフラ部分を整備する。一方、預金口座の管理や決済などは民間が主導権を握る見通しで、クレジットカードや「○○ペイ」などを介して買い物をする今の構図と大きく変わらない。
CBDC導入の利点の一つは決済の効率化だ。各中銀は、現金と同じ機能をデジタルで実現することを狙いとしており、買い物時に即時着金できるシステムをつくる。即時着金ならお店側に売掛金が発生せず、資金の流動性が高まる。決済効率化以外にも、民間主導でイノベーションが進めば生体認証で決済ができる未来も開ける。
特定のプログラムを組み込む「プログラマブル」な決済機能も整備されるとみられる。商品が納入された時点で自動的に決済が完了したり、電気自動車(EV)の充電ができるようになったりする仕組みも想定される。
もっとも、CBDCの導入はまだ決まってはいない。「改めて申し上げるが、日銀はCBDCを発行するか否かについて、決定していない」。4月、CBDCの官民協議会の冒頭、日銀の内田真一理事は強調した。
「CBDCを発行するとすれば」「CBDCが存在する、あるいは存在しない決済システムの将来像」――。いずれも内田理事がこれまでの協議会で掲げた講演タイトルだ。「最近、新たな日銀文学が生まれたんです」。出席したマネーフォワードの瀧俊雄フィンテック研究所長はこう話す。景気や物価の判断を示す際に日銀が用いる難解な表現になぞらえた。
2021年の日本のキャッシュレス比率は3割で、5割前後かそれ以上の海外に見劣りする。高齢者らを中心に現金信仰はいまだ根強い。CBDCは年齢や国籍、性別を問わず利用できるが、過度な匿名性を与えればマネーロンダリング(資金洗浄)や脱税などを助長しかねない。
そんななか、世界各国は導入に向けた動きを速めている。中国のデジタル人民元や暗号資産が国内で大々的に流通する事態になれば、日本の通貨の影響力は大きく低下する。「CBDCの導入には通貨主権を維持し、日本にとって望ましい通貨体制を維持する目的もある」。自民党のデジタルマネー推進PTで座長を務めた村井英樹首相補佐官は指摘する。
村井氏は「第2フェーズが終わりに近づく22年末ごろには日本版CBDCの姿が見え始める」と語る。最大の課題は国民合意を得ることだ。法改正やシステム整備にも時間がかかり、政府が導入を正式に決めても「実際の導入には少なくとも数年かかる」(日銀関係者)。
貝や石から金属、紙へと通貨は時代に応じてその姿を変えてきた。デジタル化の進展に伴い、通貨がデジタルに移行するのは歴史の必然ともいえる。CBDCが普及する未来はゆっくりと、しかし着実に近づいている。

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