国民の意欲高めるインボイスに 弁護士(松下政経塾第39期) 須藤博文

例えば、A商店が商品を原価70万円+消費税10%でB卸売業者から仕入れ、顧客に売価100万円+消費税10%で販売したとする。A商店が税務署に納めるべき消費税は3万円(10万円マイナス7万円)となるが、それにはA商店が仕入れ代金と一緒にB卸売業者に消費税7万円を支払った証明書が必要となる。その証明書が仕入れ先から受け取るインボイスだ。

しかし、インボイスを発行できるのは消費税の納付義務を負う課税事業者だけである。基準期間の売上高が1000万円以下の免税事業者は発行できない。

インボイス制度が始まり、A商店が課税事業者、B卸売業者が免税事業者とすると、B卸売業者はインボイスを発行できない。A商店は7万円の仕入れ額控除が認められず、税務署に消費税10万円を納付しなければならなくなる。

課税事業者であるA商店は、自ら控除額分を負担するか、B卸売業者に負担を強いるか、もしくは取引先を課税事業者に変更するかの選択を迫られる。逆に免税事業者としては取引先の変更を防ぐために、インボイスを発行できる課税事業者になるか、値引き交渉に応じるかの選択を迫られる。

事業者総数のうち免税事業者が約60%を占め、個人事業主の約75%が免税事業者である。インボイス制度は6年かけて段階的に導入されるとはいえ、免税事業者にとってインボイス制度導入の影響は非常に大きく、早期に対策を考える必要がある。

インボイス制度導入に伴い、課税事業者は電子インボイスなどによる業務効率化が進み、政府にとっても仕入れ税額控除の不正やミスを排除し、適正に税金を確保できるというメリットがある。

ただ、税について経営の神様といわれた松下幸之助は、国民の働く意欲を高める形で税制や税率を決めること、すなわち国の「勘定」と国民の「感情」をうまくかみあわせることが必要だと述べている。このインボイス制度が国の「勘定」を適正化させるだけでなく、国民の「感情」に沿って設計・運用されることを願っている。