https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFC2688Q0W2A720C2000000
名称は「NISEKO生活・モデル地区」。60億円程度を投じてマンションを建設。太陽光発電パネルや蓄電池も設置し、燃料や電気を使う際に排出する二酸化炭素(CO2)ゼロを目指す。5月、4つある工区のうち第1工区で土地の造成工事が始まった。
ニセコ町が36.2%出資して設立したまちづくり会社「ニセコまち」が街区建設を主導している。電気を一括で受電し、各マンション内の空調や給湯を効率が最もよくなるよう遠隔管理する。第1工区はオール電化マンションにするが、第2工区以降はガスなどを使ったコージェネレーション(熱電併給)システムと蓄電池を組み合わせ、エネルギー消費をコントロールする。
そのニセコまちに出資しているのが、戸建て住宅「へーベルハウス」で知られる旭化成ホームズだ。2021年9月、300万円を出資した。出資比率は4.7%だが地元以外で出資する唯一の民間企業だ。22年3月にはニセコまちが設立したSPC(特別目的会社)に第2工区と第3工区で集合住宅を建築する費用として3億円を出した。
旭化成ホームズの事業エリアは関東や関西など比較的人口が多い都市部に集中している。ニセコはもちろん、北海道に進出していなかった。最初の一歩を踏み出したきっかけはゼロカーボンへの対応だ。
厳冬の北海道。ニセコもときにはマイナス20度まで気温が下がる。環境省の実態調査によると、20年度時点で北海道の1世帯当たり年間エネルギー消費量は52.8ギガジュール。全国で最も多い。暖房や給湯に大量の灯油を使っているためだ。
旭化成ホームズはそこに着目した。ニセコの街区でエネルギー消費の少ないまちづくりに参画しノウハウを得られれば、本州などの事業エリア内でもゼロカーボン時代に適応した新たな商品開発に生かせると踏んだ。
大都市にも断熱性が低く、エネルギー消費量の多い住宅が多く残る。これまでにへーベルハウスを販売した顧客を中心に、より省エネルギーな住宅への建て替え需要はある。空調などをコントロールするエネルギーマネジメントシステムを導入した進化した住宅づくりをするためのモデルに、ニセコの街区はなりうる。
サステナビリティ企画推進部の武藤一巳部長は「ニセコでのリアルなまちづくりが事業活動に生きると期待している」と語る。現在は同部の担当者がニセコまちの取締役会に毎回出席し、今後の工事の進め方やスケジュールの議論に参加している。
旭化成はグループ全体で、事業活動やエネルギーの使用に伴うCO2排出を50年までに実質ゼロにする目標も掲げている。今後鍵を握るのは、取引先などサプライチェーン(供給網)全体でのCO2排出量を示す「スコープ3」の削減だ。
旭化成のスコープ3は20年度時点で1299万トン。このうち旭化成ホームズが販売した住宅を使うことで出るCO2は134万トンで、1割強を占める。企業に求められる地球温暖化対策の強化という面でも、ニセコの事例を応用できる。
ニセコエリアはスノーパウダーを求めて大勢の訪日外国人客が訪れる日本全国で最も進んだ国際観光地の一つだ。
ニセコ町の片山健也町長は「これからは環境に配慮した観光地が選ばれる」とみてホテルやコンドミニアムの建設時に断熱性の高い建物を推奨する条例制定を検討している。町役場も21年に3重ガラスや木製サッシを採用した庁舎に建て替えた。
CO2ゼロ街区予定地に旭化成ホームズを招いたのも町長だったという。北のゼロカーボン都市が企業を巻き込み、企業に進化を促している。
(井田正利)

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