https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD30AXO0Q2A630C2000000
今週の専門家
1位 周辺の環境・雰囲気

夢のマイホームを選ぶとき、家のデザインや住宅設備の性能などに目を奪われがちになる。しかし、専門家が選んだ1位は家そのものではなく、周辺の環境や近所の雰囲気の方だった。「これらは自分の力では変えるのが難しいうえ、生活していくうえでの影響は大きい」(久谷真理子さん)ためだという。
例えば病院や学校、公園、生活必需品を買うための店舗などが、家からどの程度の距離にあるのかは確認が欠かせない。自分の足で周辺を歩き回ることで、下見の際に近所の住民と接点を持てる場合もある。このとき「近所づきあいや自治会はどうなっているかなど今後、暮らしていくために必要なことをできる限り聞きたい」(花原浩二さん)。
マンションには原則として管理組合があり、購入すれば加入することになるが「戸建ては『一国一城の主』になったような気持ちで、近隣の状況をあまりに気にしない人がいる」(田村啓さん)。特に住宅地に建てる場合は「その地域コミュニティーに溶け込めるかどうかは入居後の幸福度を大きく左右する」(同)という。なかには「マイホームは『家を買う』だけではなく、同時に『街も買う』ことになると考えておいた方がいい」(山本久美子さん)という声もあった。
2位 資金計画

「人生最大の買い物」といわれる住宅購入。バブル期に匹敵するほどの価格高騰が話題になるマンションに比べ、戸建ては新築でも居住スペースの割にはリーズナブルにみえることもある。とはいえ、支出額は大きく、自らの収入や貯蓄をもとに、購入可能な家を選ぶための慎重な検討が必要だ。
住宅を購入する際はローンを組むことが多い。「家の構造や立地が完璧でも返済不能になっては無意味。現在の収入で返済可能なのは当然だが、金利上昇や夫婦共働きを続けられるかなど不測の事態にも備えるシミュレーションが必要だ」(黒須秀司さん)。試算は返済額だけでなく「購入後に必要な固定資産税や修繕費なども意識したい」(東誠人さん)。
鈴木誠さんは「すべては資金で決まると言ってもいい。(ローン返済などで)無理をする資金計画は入居後に日々の暮らしを圧迫し結局、楽しく生活できなくなってしまう」と指摘する。
3位 災害リスク

ここ数年、大規模な地震や台風、集中豪雨などの災害が目立っている。購入する家が立地するエリアの災害リスクのチェックは欠かせない要素だ。「(マンションと比べると)戸建ては災害に弱い場合が多いといえる。土地の安全性が重要になる」(井出武さん)。まず基本中の基本として「ハザードマップのチェックは必須だ」(榊淳司さん)。
海や川などが近くにあるかを確認したり、地盤の状況や過去の被災歴を調査したりすることも有効だ。「最近は自治体などから様々な情報が発信されている。住宅を販売する事業者が教えてくれる情報だけに頼らず、自分自身で確認を行うべきだ」(黒須さん)
もし入居後に災害が発生したら、直後の暮らしに困るのはもちろん、被災した家の資産としての評価も大きな影響を受けるため「資産が負債となりかねない」(鈴木さん)ことは覚えておきたい。
4位 駅との距離

在宅勤務の普及などにより、以前に比べて交通の利便性が低い立地でも構わない人が増えたとされる。ただ、それでも駅に近い家は長い目で見れば有利だという見方の専門家が多い。「結局、駅から近い方が何かと便利になる。逆に遠いと出無精になりかねない」(井出さん)
「通勤・通学だけではない。例えば車を運転しなくなる老後の生活まで考えると駅からの距離は大事だ」(川口哲平さん)など、将来を見据えた意見も多かった。人口が減り、居住地の選別は利便性を基準にさらに進む可能性がある。渕ノ上弘和さんは「駅からの距離がそのまま住宅の資産性になると考えられる。市場評価が落ちにくい家を選ぶことは家計へのインパクトが非常に大きい」と話す。
5位 周辺データ

今回1位となった「周辺の環境・雰囲気」は現在の状況を示す項目だ。一方、定量的なデータを用いて地域の将来性も探っておきたい。例えば家が立地する自治体の人口動態や都市計画を調べておくことで、周辺の未来像をある程度までは予測することができるかもしれない。
「地域の人気度は二極化が進んでいる。各種データを分析して今後も『他地域には負けない街』を選ぶ姿勢が必要だ」(渕ノ上さん)。また「高齢化率が高いエリアは将来、空き家が増える可能性も考えないといけない」(上田真一さん)。ひとたび空き家が多くなると、エリア全体の市場評価が低下したり、行政サービスが行き届かなくなったりする懸念があるという。
6位 日照条件

「家の日当たりは日常の気分を左右する」(榊さん)面がある。最近は在宅勤務のために家で過ごす時間が増えた人も多く「日当たりが悪く、暗い部屋に長くいると気持ちもめいってしまう」(山本さん)。夏と冬など季節ごとの変化まで調べたり、家の中のすべての部屋への日光の入り方を時間帯ごとに確認したりするのは手間だが、後悔しないように時間をかけて確認したい。
せっかく入念に現状を調べても、家の隣に空き地などがある場合は将来、状況が一変しかねないことも戸建て住宅ならではの注意点といえるかもしれない。「(家への日当たりを遮るほど)高層の建物が建築できるエリアなのかも念のために調べたい」(上田さん)
7位 間取り

こだわる人が多い一方で、意外に誤算も目立つのが部屋などをどのように配置するかという間取りだ。「選び方を間違えてしまうとストレスを感じながら生活をする可能性がある。住んだ後に、子どもの成長・独立などによる家族構成の変化によっても最適な間取りは変わってくる」(川口さん)。将来まで見通した選択が必要だ。
特に多層階型の住宅を検討する場合、日常生活を送るうえで、家の中をどのように動くのか、線でつないで考える「生活動線」の視点も大切だ。池本洋一さんは「例えば、3階建てなら『洗濯物動線』を確認しておくといい。洗濯は1階で行って、物干しするのは3階まで上がって行うといった形は最悪だといえる」と指摘する。
8位 省エネ性

このたびの法律の改正で「2025年度にはすべての新築住宅で省エネ基準への適合が義務付けられることになった」(池本さん)。断熱性が高い家なら夏に涼しく、冬に暖かい快適な暮らしを期待でき、環境への配慮にもなる。国際的なエネルギー価格の先行きが不透明ななか、光熱費の節約で家計にも恩恵がありそうだ。
義務付け前に建築・購入する場合も、安易に低い省エネ性で妥協しない方が長い目で見ると得するかもしれない。例えば将来売却する可能性がある場合だ。「数年後には一定の基準に適合した家が標準になる。これより劣る古い性能の家は将来的には資産評価の点でマイナスになってしまう」(田村さん)
9位 耐震性

自分の家がどれだけの地震に耐えられるか。「大規模地震の懸念が高まるなか、その重要性は一段と高まっている」(山本さん)。家の耐震性を考えるうえで参考になるのは国が定めている「耐震等級」だ。最も低い「等級1」は法律が求める最低基準で、最高の「等級3」は「1」に比べて1.5倍の揺れの地震に耐えられるとされる。
最近は強い余震が連続するケースもみられるだけに「等級が高いほど、複数回の地震に耐える確率が上がる」(東さん)という声も聞かれた。新築戸建てでは最高等級をとる住宅が増えているが、すべてではない。自分と家族の命と財産を守る基礎的な項目として、しっかり確認しておく必要がある。
10位 契約条件

コロナ禍に続きロシアのウクライナ侵攻に伴う国際的な生産・物流の混乱は住宅の資材や部品などにも及んでいる。とりわけ影響が大きいのは、戸建ての注文住宅だ。工事に取りかかった後に木材などが値上がりしたり、トイレなど部品の納入が遅れたために、引き渡しが遅れたりすることが考えられる。
個人の注意だけでリスクをゼロにするのは難しいが「契約の際、部品の品番なども含めた詳細な内訳を出してもらうことが自衛策になる」(田村さん)。工事に入った後、もし部品価格の上昇などを理由に値上げを迫られても、内訳があれば値上げの妥当性を判断しやすい。「値上げ幅を狭める交渉にも使える」(同)
新築は価格上昇 中古も選択肢に
コロナ禍で在宅勤務が増え、職場までの距離や時間の重要性は相対的に下がった。一方、自宅で仕事用のスペースを求める人は増えた。この2つの要素を満たせそうな戸建てへの関心が高まったが、実際の建築や販売は伸び悩みもみられる。ネックの一つが価格だ。マンションに比べれば緩やかだが、戸建ても値上がりしている。国土交通省の不動産価格指数によれば、2010年の平均価格を100とすると22年3月は112だ。
加えて「大手寡占が進んだマンションに比べると、戸建ては供給企業が多く、規模も様々」(さくら事務所の田村さん)。高騰するマンションを避け、戸建てを探したが、選択肢が多すぎて逆に迷う人も少なくない。注文住宅で工事費が上昇したり、引き渡しが遅れたりというリスクも不安材料に浮上した。田村さんは「新築価格がこれだけ高くなると、むしろ迷って立ち止まるくらい慎重な方が健全だ」と話す。中古住宅や賃貸など他の選択肢も含めて、じっくり選ぶことが大切だ。その時間の余裕を持てず、購入を焦ることこそ最大の注意点かもしれない。
ランキングの見方
調査の方法
(堀大介)

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