· 

80億人の世界経済 人口爆発の「なごり」の成長どこまで

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD2095P0Q2A720C2000000

 

ここからの数十年は、繁栄と成長の原動力になった人口爆発から、ほとんどの地域が少子高齢化に直面する人口縮小への過渡期。人口爆発の「なごり」の成長を取り込みつつ、バブル崩壊を回避するソフトランディングが世界経済の課題となる。

世界人口、2080年代にピークに

世界人口は今年7月で79億7500万人に達した。最新の国連推計によると、年内に80億人を突破した後も人口は増え続け、2080年代に104億人台でピークを迎える。

英オックスフォード大学などが運営するデータベース「Our World in Data」によると、西暦が始まった2022年前に約2億人だった世界人口が10億人に達したのはナポレオン戦争のさなかの1800年ごろ。そこから約130年で20億人に、次の約50年で40億人になり、以後は10年あまりで10億人ずつ増加する人口爆発が起きた。

人口動態の変化は世界経済にどんな影響を及ぼすのか。人口に占める労働力の割合が高くなる「人口ボーナス」が参考になる。

経済成長を決めるのは労働力、資本ストック、技術革新とされる。労働力で注目すべきは人口規模というよりは人口構成。人口が多くても子供の割合が高ければ生活費や教育費にお金がかかり、高齢者の割合が高ければ医療や年金などの負担が増える。子供や高齢者の割合が低く、多くの働き手が所得を消費や投資にまわせるようであれば、その国の経済成長は促進される。生産年齢人口(15~64歳)が増え続け、それ以外の人口の2倍以上いる状態を人口ボーナス期と呼ぶ。

その動きをみると世界経済の主役交代がわかる。1990年代半ば、日本と入れ替わるように人口ボーナス期に入った中国は、その後の四半世紀で名目国内総生産(GDP)を20倍以上に拡大し、経済大国として台頭した。

だが生産年齢人口は2015年前後にピークを迎え、全体の人口も今年上期に減少に転じたもようだ。世界の工場として、世界の最大市場としてグローバル経済をけん引してきた中国の人口増加の時代は終わり、23年には人口世界一の座もインドに明け渡す。

インドの人口は23年7月に約14億2900万人となり、中国を300万人上回る。すでに18年前後から人口ボーナス期に入っており、生産年齢人口も48年までは増加が続く。

インドの次はアフリカ

そのインドの後を追いかけるのがアフリカだ。地域としての人口は約14億2700万人で、すでに中国を上回っている。人口・GDPともにアフリカ最大のナイジェリアは60年代から人口ボーナス期を迎える。

コンゴ民主共和国、エジプト、エチオピア、インド、ナイジェリア、パキスタン、フィリピン、タンザニア――。国連経済社会局は「50年にかけての世界人口の増加の半分以上は8カ国に集中する」とみている。その8カ国中の5カ国がアフリカだ。

アフリカの人口増加は確かに大きなポテンシャルを秘めている。だが貧困や失業が深刻で、ナイジェリアでは若年層の失業率が40%を超える。海外からの投資を呼び込み、産業集積を高めないと、人口の増加に雇用の受け皿が追いつかない。

中国とは人口構成比の違いもある。たとえば全人口に占める生産年齢人口の割合はピーク時の中国は73%だったが、インドやナイジェリアは67~69%にとどまり、人口ボーナス指数も中国ほど高くない。亜細亜大学アジア研究所の大泉啓一郎教授は「インドやアフリカは中国のような製造業主導の経済発展は考えにくい。成長が本格化するまで時間がかかるだろう」と分析する。

中国からインドへの世代交代が進む間にも波乱の芽がある。不動産市場の急速な悪化など、中国バブルの崩壊リスクだ。

世界銀行によると、中国の貯蓄率(対GDP比)は2008年に52%のピークに達したが、20年時点でもなお44%と、世界全体の26%を大幅に上回る。働き手が多くなれば貯蓄が増え、拡大期はそれが設備投資などにまわって成長を押し上げる。問題は「経済成長の末期には貯蓄率はなお高いが、投資資金は行き場を失う。日本でも貯蓄率の最後のピークは1990年前後だった」(大泉教授)。中国経済がバブルを崩壊させずにソフトランディングし、急速な高齢化に備えられるかどうかがポイントだ。

日本では人口ボーナスがピークを迎えた1990年代初めにバブル経済が崩壊。低成長への軟着陸に失敗して非正規雇用の増加などを生んだことが少子高齢化に拍車をかけた。人口爆発の「なごり」ともいえるインドやアフリカの成長を取り込みつつ、人口縮小への備えを進めることが、持続可能な経済社会を実現するためのカギとなる。