https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD27BAE0X20C22A7000000
ライフイズテック(プログラミング教育)の水野雄介最高経営責任者(CEO)、READYFOR(クラウドファンディング)の米良はるかCEO、ユニファ(保育施設支援)の星直人最高財務責任者(CFO)が7月25日、ある勉強会で顔をそろえた。
並ぶ3人を見て、頭をよぎったのは1970~80年代に起業した「ベンチャー三銃士」の顔だ。ソフトバンクグループの孫正義氏、パソナグループの南部靖之氏、エイチ・アイ・エスの沢田秀雄氏。それぞれ情報、人材、旅行の分野でビジネスを育て、後に続く起業家たちに影響を与えた。
時は流れ、社会が求める起業家像も変わった。水野氏ら「シン・三銃士」は時代の要請を映す存在だろう。利益を出して社会貢献に回すのではなく、それ自体が課題解決に直結する事業を担う。
中高生のデジタル能力を高め本人の可能性を引き出すのがライフイズテックなら、READYFORは地域を活気づけたり高齢者を支えたりする活動にお金を流す。ユニファはストレスなく仕事と子育てができる環境を整える。
ソーシャルIPOで後進促す
伝統的に「社会にいいこと」は「つつましやか」に取り組むのが定番だった。NPO法人などが小規模に手がける、という図式だ。もはやそれでは積み上がる社会課題に追いつけない。
「若いZ世代が起業する動機に社会性は必ず入ってくる。自分たちがそのモデルをつくれるといい」。米良氏はほかのふたりと経営の視座、方向性が近いと語る。
ライフイズテックはプログラミングを学んだ子供の自己肯定感の向上、起業家の輩出など事業が生む成果をまとめたインパクト報告書を2024年に発行する目標を持つ。水野氏は社会へのプラス効果も加味して企業価値が判断されるソーシャルIPO(新規株式公開)をねらう。「大型上場ができれば、やりたい人は増える」
社会性を言い訳にして、ゆるい経営に甘んじてはいけないとの姿勢はユニファも同じだ。ガバナンス強化のため監査等委員会設置会社となり、優先的に取り組むマテリアリティー(重要課題)を顧客や従業員、株主などと対話して特定し、公表している。
ESG(環境・社会・企業統治)経営が叫ばれるなか、見せかけだけのESGウォッシュが問題視される。経営の透明度を上げて周囲を巻き込む技を磨く。
空き家の解決や長期投資も
社会課題が市場創出、成長の源になる。そう考える起業家と出会う機会が増えた。例えばシェアハウスの仕組みを使って空き家問題を解く巻組(宮城県石巻市)。創業者の渡辺享子氏は事業の規模を拡大したいと21年、ガイアックスから出資を受けた。
まず都内に第1号を開いたのは、DAO(分散型自律組織)型シェアハウスだ。入居者や運営に関わりたい人がデジタル資産のトークンを購入し、所有割合に応じた投票で、どんな住まいにするか決めていく。一見、退屈な空き家問題が先端的なテクノロジープロジェクトになる。渡辺氏は言う。「世界中の人が日本の不動産を購入・運営して価値を上げられる。新しい不動産運用の道が開ける」
日本でも課題解決に注がれる資金は増加中だが、対象は融資や上場株が中心で、スタートアップ投資の残高はまだ少ない。
目をこらせば変化を促す試みはある。社会性と経済性の両方を追う企業を白黒のしま模様になぞらえ「ゼブラ」と呼び、その経営を後押しするのが21年設立のゼブラアンドカンパニー(Z&C、東京・港)だ。従来のベンチャーキャピタル(VC)とは違うスタートアップ投資の手法を編み出した。
Z&Cによれば、VCは3~5年でのIPOなどを投資先に求め、急成長を迫る。Z&Cはそうした制約を設けない。レベニューシェア(収益分配)や経営支援の報酬を通じて投資先と共生し、長期の関係を築く。成果を上げるにはじっくり腰を据えて挑むべきビジネス領域があるからだ。
「上場を絶対のゴールとせず、起業家や従業員の自由度を確保する」と共同創業者の阿座上陽平氏は話す。これまでに女性の悩みを解消するフェムテック関連など3社に出資した。
スタートアップのあり方に多様性を
ゼブラ企業の考え方はユニコーン(価値10億ドル以上の未上場企業)に対するアンチテーゼとして米国で生まれたが、社会の革新にはユニコーンも必要だ。肝心なのはスタートアップのあり方に多様性があること。「こうでなければならない」と枠をはめては息苦しく、起業家の力が開花しない。
米国では公益重視を前面に掲げるベネフィットコーポレーション制度が広がり、フランスでも社会や環境の問題に向き合う経営をする「使命を果たす会社」が法律で定められた。ある専門家によると、こうした法人形態は20年までに世界で1万社に達した。
社会の前進にどう企業の力を生かすか。知恵の競争がグローバルに始まっている。日本政府も「新しい資本主義」の実行計画に米欧流の新たな法人形態の検討を盛り込んだ。そもそもスタートアップ創出を課題とする日本にとって中身のある議論が欠かせない。
水野氏らが元祖・三銃士ほどの存在感を発揮できるか予測は難しいが、その振る舞いから得られるヒントは多いはずだ。



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