相続の戸籍集め、思わぬ手間 結婚・転籍で数増える

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特に被相続人については出生から死亡までの連続した戸籍などが求められ、作業が煩雑になりやすい。

「父は東京都台東区で生まれ育ったと言っていた。過去の戸籍は1カ所で取得できると思い込んでいた」。都内に住む男性会社員(59)は昨年88歳で亡くなった父親の遺産相続を振り返る。

父親は埼玉県に1人で住んでいた。出生からの戸籍を取得しようと台東区役所を訪れたところ、窓口で千葉県から本籍地を変更(転籍)していたと知らされびっくり。後日、千葉県の役所に行くと今度は富山県から転籍していたことが分かった。「父は出生時にいったん富山の親戚の戸籍に入っていた」。戸籍は全部で6通になったという。

相続で被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本をそろえるのは、「相続人が誰で、何人いるかを確定するため」(行政書士の明石久美氏)だ。戸籍は結婚や転籍などで書き換えられ、それ以前の記載は一部が省略される。例えば離婚した相手との間に子がいたり、認知した子や養子がいたりしても現在の戸籍だけでは分からないことが多い。通常は死亡時点の本籍地で死亡の記載のある戸籍を取得した後、転籍や結婚などを手掛かりに過去に本籍があった役所に請求し、出生まで遡る。

取得する戸籍の数は法律による改製でも変わる。改製は昭和と平成に1回ずつ。「仮に80代の親が亡くなり、結婚1回で生まれたときから本籍地を変えていなくても、出生時と結婚、2回の改製で戸籍は4種類」と三菱UFJ信託銀行・MUFG相続研究所所長の小谷亨一氏は話す。この場合は1カ所で全部そろうが、転籍すれば数や請求場所が増える。

「請求する戸籍が増えやすいのは引っ越しが多く、その都度転籍していたり、子がなく兄弟姉妹が相続したりするケース」と行政書士の汲田健氏は話す。兄弟姉妹が相続するときは相続人を確定するのに亡くなった人だけでなく、その両親の出生から死亡までの戸籍もそろえなければならない。

兄弟姉妹の戸籍は全員生きていれば現在の戸籍だけで済む。だが、亡くなっていればその子も相続人になるので、亡くなった兄弟姉妹の出生から死亡までの戸籍が必要になる。「兄弟の人数にもよるが全部で50通を超えることもある」(汲田氏)。

戸籍は郵送で取り寄せることもできる。所定の請求書に必要事項を書き込み、請求者本人の確認書類、切手を貼った返信用封筒などと一緒に申し込む。昔の戸籍は通常1通750円。定額小為替という証書を郵便局で買って同封する。さらに定額小為替の発行料金が1枚につき200円かかる。戸籍が何通あるか分からないときは、初めから定額小為替を多く送れば、余った分は返却される。

集めた戸籍は遺産の名義変更の届け出などに使う。預貯金は銀行、株式は証券会社、不動産は法務局(登記所)といった具合に財産ごとに必要な書類と併せて提出する。それぞれ集めた戸籍の束が必要になるため、提出先が多いと厄介だ。「戸籍などの書類は希望すれば返してくれるが、返却がすぐのところもあれば、時間がかかるところもある」(司法書士の勝猛一氏)。1つの束を使い回すと時間がかかり、複数を用意すれば費用がかさむ。

そんな不便さを減らそうと、2017年度に始まったのが「法定相続情報証明制度」だ。集めた戸籍と相続関係を表した図(法定相続情報一覧図)を管轄する法務局に提出すると、登記官が内容を確認したうえで一覧図を保管。確認済みの一覧図の写しは、無料で必要な枚数を交付してくれる。

一覧図の写しは金融機関の名義変更などで戸籍謄本の束の代わりとして使える場合が多い。複数枚を取得しておけば様々な手続きを同時に進められる。法務局が内容を確認し「集めた戸籍に抜け落ちている部分があれば指摘してくれる」(行政書士の明石氏)利点もある。法務省によれば、発行枚数は17年度の約34万通から21年度は約138万通に増えた。

今後は出生までの戸籍を集める手間も軽減される見通しだ。法務省は本籍地の窓口だけでなく、最寄りの市区町村でも必要な戸籍を取得できるよう準備を進めており、23年度中の開始を予定している。

(土井誠司)