登山道のなかには、中央部がえぐれてその脇を歩かざるを得なかったり、まるでハードルのような段差があったりで歩きにくい場所を目にしたことがあるかもしれない。
先日、代表を務めるNPO法人富士トレイルランナーズ倶楽部が中心となり、環境省の支援のもと新しい登山道の整備手法を学んだ。講師は「近自然工法」による修復をおもに北海道で推進する大雪山・山守隊の代表理事、岡崎哲三さんだ。
この整備法のポイントは登山道が荒れた原因を見極めること。人によって踏みつけられ、大雨による土砂の流出、冬にできた霜柱が溶けたことによるなど、さまざまな要因が複合して起こる。それぞれの場所ごとに原因に合わせた対策を打たないと、いくら丈夫な人工物を設置してもすぐに壊れてしまう。
登山道の整備は土木工事の専門知識が不可欠と思われがち。この工法は特殊な知識ではなく、自然が生み出した理にかなった形状で道を復元していく。材料はその土地の倒木、石や土。チェーンソーなどの専門具も使う。それでも大切なのは、周辺環境をよく観察し、自然の状況をしっかりと把握することにある。
段差は誰でも無理なく歩ける20センチを目安としているので、修復後は高齢者でも負担が少なく自然を楽しめるようになる。
岡崎さんは、この整備法の一番の目的を植生の回復だという。荒れた登山道ではハイカーはできるだけ歩きやすい場所を選ぶ。そのため道は広がり、植生も破壊されるそうだ。
本来、山歩きでは自然をありのままに堪能すべきだろう。登山道は歩きやすく、それでいてできる限り手を加えない方がいい。
作業においても基本的にクレーン車やショベルカーなどは使わない。その土地の倒木や土などを運搬する体力と根気、やる気がある人々を多数集められるかどうかが、この工法を成功に導く最大の決め手だ。
山での作業は日常を忘れることができる。山が好きな者同士なら雑談もはずむし、何より自分が整備した道をこのあと多くの人々が通るのだと思うと力も入る。
プロトレイルランナーの自分が提案したいのは、全国の300あまりのトレイルランニング大会の主催者が呼びかけて、ランナーの力を結集させること。参加者は自分が大会でたどる道だけに熱が入るに違いないし、何より山を走る体力は整備作業にうってつけではないか。
登山道は長年、管理者の行政から作業を請け負った業者や地域の山岳組織が整備してきた。それも高齢化や財政難で行き届かないと聞く。限られた組織・団体に依存したままだと限界が近い。
これからの登山道整備には、やる気のある人々を積極的に巻き込む工夫が必要だ。そのため整備のキーマンには発信力やコミュニケーション能力が重要となる。
近自然工法は、現代の登山道整備の課題を解決する糸口となると同時に新しい山へのかかわり方を提案し、山とつながるひとびとの輪を広げる可能性を秘めている。そう強く感じた。
(プロトレイルランナー)
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