https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB27CEW0X20C22A7000000
6月に個人は2年ぶりに買い越しとなった。ホテルやオフィス物件ではファンダメンタルの改善傾向もみられており、個人の買いがREIT全体の「買いシグナル」になる可能性がある。
「かなり珍しい事象だ」――。国内運用会社のREIT担当者が驚くのは、個人のREIT売買が6月は買い越しになったからだ。2020年6月以来2年ぶりだが、実は個人の買い越しは過去10年間で6回しかない。
過去を遡ると、個人がREITを買い越したタイミングは20年春のコロナショックや08~09年のリーマン・ショックの時期。東証REIT指数が急落した局面と重なる。個人が底値で拾い、REIT指数は回復してきた経緯がある。
6月は米金利の上昇などを受けてリスク資産であるREITが海外投資家から敬遠され、「東証REIT指数が1900に近づいたタイミングで割安感が意識された可能性がある」(モルガン・スタンレーMUFG証券の竹村淳郎アナリスト)という。
28日の東証REIT指数は前日比1.5ポイント(0.1%高)の2002.68だった。25日に節目の2000を約1カ月半ぶりに回復したあとは底堅い動きだ。
なぜ、REITは個人の売り越しが多いのか。一つは頻繁に増資をして物件の購入資金を調達するREITの仕組みにある。増資の主要な引き受け先である個人は取得した投資口(株式に相当)を市場で売って利ざやを稼ぐ。ただ増資分の投資口購入は売買動向には表れないため、「市場での買いがよほど多くなければ売り越しになる」(アイビー総研の関大介代表)。
「これまでの急落局面でREITを買って成功体験を持っている個人が一定数いる」(アイビー総研の関氏)といい、米国金利の上昇に伴って調整した相場も個人にとって格好の買い場になっているようだ。
米国を中心に世界の景気後退が懸念される中、日本のREITに不安はないのか。その中で個人が着目するのは、賃料収入の回復が見込めそうな銘柄だ。その一つが新型コロナウイルス禍で大きなダメージを受けたホテル系REITだ。
60代の個人投資家、toruneさん(ハンドルネーム)は「(ホテル系の)インヴィンシブル投資法人(INV)をコロナ禍で買い増してきた。旅行などの経済活動が正常化し、値上がりするのを待っている」と話す。
上場REITの投資口価格上昇率(21年末比)をランキングすると、上位はジャパン・ホテル・リート投資法人、いちごホテルリート投資法人、INVとホテル系がほぼ独占する。上昇してもなお株式のPBR(株価純資産倍率)にあたる「NAV倍率」は1倍以下と割高感はとぼしい。UBS証券は22日にホテルリートとINVの投資評価をそろって最上位の「買い」に引き上げた。
新型コロナの新規感染者数は過去最高水準で推移するものの、今のところ岸田政権は行動制限を求める様子はない。ホテルリートは25日、7月のRevPAR(客室1室あたりの売上高)はコロナ前の19年比4割弱の減少になりそうだと発表した。「感染拡大の割に底堅い」(モルガン・スタンレーMUFGの竹村氏)との受け止めが広がっている。
一方、オフィス系に注目するのは個人投資家のなちゅさん。ジャパンエクセレント投資法人、グローバル・ワン不動産投資法人の買い増しを検討しているといい、「NAV倍率が0.7倍台と極めて割安だ。含み益のある物件も多いので売却益で分配金も期待できる」と話す。
三鬼商事によると、22年6月の東京都心5区のオフィス・ビル平均賃料は、前年同月比の下落率が11カ月連続で縮小した。空室率の上昇傾向は21年後半から鈍化しており、直近6カ月のうち3カ月が前月比で改善した。
各REITは個人が期待する賃料収入の回復を果たせるのか。上昇シグナルがともったREIT市場の今後を占うことになりそうだ。
(小池颯)


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