https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF079R00X00C22A7000000
1930年代に建てられた長屋を改装し、障子を開けた先にプロジェクターが投影するバーチャル世界が広がる工夫を施した。新築住宅市場が縮小するなか、デジタル技術を活用して住宅や施設に付加価値を付けて需要を取り込む。
古めかしい長屋の一階。天井から7個の電球がつり下げられ、部屋に積み上げられたブロックには5基のプロジェクターが光を投影する。電球には加速度センサーが入っており、手で突くと効果音が鳴る。ブロックは座る位置によって光り方が変わり、さながら人間の動きに合わせて建物が反応しているようだ。
二階には「障子の間」と「襖の間」の2つの部屋がある。6畳ほどのこぢんまりとした部屋の壁に沿って障子や襖がある。開くと効果音とともに、天井に設置されたプロジェクターから古都の風景などが壁に映し出される。無機質な壁のはずが、映像によって奥行きを感じられる。
東京都品川区にある古民家一棟を改装し「XR HOUSE(エックスアールハウス)」の実証実験を6月に開始した。京浜急行電鉄が所有する建物を木造住宅の設計を手掛けるMAKE HOUSE(東京・品川)が借り受け、大和ハウスなどが企画した。内装は建築設計事務所のnoiz(ノイズ、同・目黒)とバンダイナムコ研究所が手掛けた。
新築住宅市場は冷え込んでいる。国土交通省によると21年度の新設住宅着工戸数は86万戸と20年間で26%減った。代わりに目をつけたのが中古住宅の再生だ。河野宏上席執行役員は「建物の価値を維持するのではなく、価値を高めていく一端にしたい」と話す。
例えば高いビルに囲まれ窓からの視界が遮られた住宅でも、プロジェクターを活用することで外の景色を疑似的に作り出すことができる。センサーで人間の動きを感知するシステムは高齢者が入室した時に自動でエアコンをオンにする機能などに応用可能だ。
これまでリノベーションは外壁の再塗装や室内のリフォームにとどめていたが、デジタル技術を用いて付加価値を付けることで、中古住宅をさらに高値で売却できるとみる。技術統括本部の宮内尊彰次長は「中古建物の概念が変わり、資産価値のパラダイムシフトが起こせるのでは」と期待を寄せる。今後は住宅だけではなく、大和ハウスが手がける商業施設や集合住宅でも実験したい考えだ。
課題も残る。エックスアールハウスは一階と二階で合わせて7基のプロジェクター、11台のスピーカーがあり、導入コストがかさむ。機器やセンサーを維持する電気代も無視できない。中古住宅の価値を効率よく高めるためには、いかに低コストでデジタル技術を実装するかが重要になる。実証実験は8月末まで実施する。


コメントをお書きください