メタバース金融(上) 仮想空間、混迷の先手争い 30年に市場規模1600兆円 みずほ、決済で活用検討

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仮想空間上で経済活動が活発化すれば商取引やデジタル決済で金融の役割が増す。本人確認や課税の体系など課題は山積するが、顧客との接点を拡大する有力なツールにもなる。「メタバース×金融」の未来像を探る。

「将来的に現実とメタバースの境界がなくなるかもしれない。金融機能をどう発揮するか可能性を追っていきたい」。19日に開いた記者会見で、みずほフィナンシャルグループのデジタルイノベーション担当の梅宮真副社長は語った。8月に開かれる仮想現実(VR)イベントにみずほ銀行がブースを出す。

メタバースは「超越」を意味する「メタ」と、「世界」を指すユニバースの「バース」を掛け合わせた造語だ。米フェイスブックが2021年に社名を「メタ」に変更したことで世界的に注目度が高まった。インターネット上の仮想空間で個人が自らの分身(アバター)を操って他者と会話したり、イベントに参加したりできる。所有者を明確にしたデジタルアートのNFT(非代替性トークン)や仮想空間内での土地の売買にも活用されるようになってきた。

 

世界のメタバースの市場規模は21年に約626億ドル(約8.6兆円)だったが、米シティグループの予測によれば30年までに最大13兆ドル(約1600兆円)まで膨らむ。米ガートナーは26年までに世界で4人に1人が1日1時間以上をメタバースで過ごすと予測する。

メタバースが日常的に使われるようになれば、財やサービスの取引が飛躍的に増える。決済など金融機能を提供する金融機関が参入をうかがうのは自然な流れだ。

みずほは2つの点でビジネス機会を探る。1つは非対面で顧客と接点を持つ新たなチャネル。メタバースに店舗を作れば利用者がアバターで気軽に来店できる。資産形成や住宅ローンの相談などで活用するイメージだ。

もう一つが、本丸ともいえる決済機能の提供だ。メタバースでは独自の暗号資産(仮想通貨)を発行するサービス提供者もいるが、決済手段はまちまちで統一感がない。ここでみずほのスマホ決済サービス「Jコインペイ」の基盤技術が使えないか検討する。まだ具体的な実証実験の計画もない手探りの試みになりそうだが、国内銀行勢で先手を打つ狙いもある。

メタバースでは現時点で仮想通貨が共通通貨として使われている。NFTなどの取引ではイーサリアムなどが決済通貨になっていることが多い。

独自のデジタル通貨「プログマ」を発行する三菱UFJ信託銀行は、メタバース内の決済でも同通貨を活用する検討を始めている。メタバース内のコンテンツや権利をNFT化して、デジタル資産を一元管理するアプリも提供する構想だ。

海外の金融大手は先んじて機会をうかがう。米JPモルガン・チェースは2月、ある仮想空間に「オニキス・ラウンジ」と呼ぶ窓口を開いた。東京の原宿を模した「メタジュク」の建物の壁にはジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)の写真が飾られている。まだ仮想通貨の説明を聞ける程度だが、メタバースそのものは将来年間1兆ドルの収益を生み出す可能性があると予測する。

決済通貨については国内勢よりも壮大な絵を描く。同社が年初に公表したメタバース白書を見ると、単一通貨から複数通貨まで選択肢を顧客に提示し、迅速な取引でメタバース決済の覇権を握ろうとしている。

もっともメタバースの本格的な市場形成には課題山積だ。国境をまたいだクロスボーダー取引の課税、本人確認を厳格化しなければマネーロンダリング(資金洗浄)などの温床になりかねない。

日本では各業界団体がルール整備に名のりを上げるが、自陣営への誘致ばかりに目を向けている。日本勢の混乱が続く間に、メタやマイクロソフトなど米テック企業は、各社のメタバースに互換性を持たせるための業界標準団体「メタバース・スタンダーズ・フォーラム」を設立した。

日本でも「団体の集約と、規制・ルールの整備が急務だ。今のままではどこまで本格的に生活拠点となっていくのか予測が難しい部分がある」(NTTデータの金融イノベーション本部)との声が出ている。国と民間が一体的に市場を形成する視点がないと、メタバースの領域でも日本が後れを取りかねない。