デジタル証券始動 少額でも大家になれ、利回り3%超も

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ちまたで話題のデジタル証券。その最大のポイントは、従来は個人投資家が手を出しにくかったジャンルに投資できる魅力と、小口化による手軽さだ。先行商品の投資妙味や今後の可能性について、商品化の先駆者たちに取材した。4回連載でお届けする。

デジタル証券、セキュリティー・トークン(ST)――。これらの言葉を初めて目にする読者も少なくないだろう。ここ1年でにわかに具体的な商品の発売が増え、注目されている新しい金融商品だ。

社債がわずか2時間で完売

まずは論より証拠。具体例を示そう。昨年4月にSBI証券が自社の社債をデジタル証券化して販売したデジタル社債(社債ST)。総発行額は1億円だったが、わずか2時間で完売したという。今年6月には、丸井グループがエポスカードの会員向けにデジタル社債を発行。約1億円の募集に約20倍の申し込みが殺到した。こうしたデジタル社債の人気ぶりに、新たな投資商品としての期待の高さがうかがえる。

デジタル証券とは一体何なのか。魅力はどこにあるのか。デジタル証券(セキュリティー・トークン)の健全な発展を目的として設立された一般社団法人の日本STO協会。同協会の事務局長を務める平田公一さんは「既に株や投資信託も電子化され、オンライン上で取引されている」と指摘し、従来の金融商品の電子化とデジタル証券の違いを次のように説明する。

「従来の電子化はあくまで紙の証券をデジタルデータに置き換えたもの。デジタル証券は、有価証券に表示される権利をブロックチェーン(分散型台帳)などの上で生成・発行されるトークン(証票)に表示したものだ」

具体的な例で説明しよう。価格が100万円の紙の有価証券を1枚電子化する場合、デジタルデータも1枚100万円で売ることになる。一方、有価証券の権利をトークン化する場合はこうした制約がない。100万円を受け取る権利を細分化し、販売単位も販売価格も自由に設定できる。例えば1口100円での発行も可能だ。

「デジタル証券の流通が今後広がると予測されることから、投資家保護の観点で株や投資信託と同じく、第1種金融商品取引業に分類される証券会社などが主に取り扱うことになった。第2種金融商品取引業者の取り扱いは、一部の有価証券の権利をトークン化した商品に限定された」(平田さん)

販売単位や販売価格を小口化できる点が、デジタル証券が注目される大きな理由だ。一般的な社債の販売価格は、1口100万円など大口になることが多い。前出の丸井グループのデジタル社債は1口1万円、SBI証券も1口10万円と非常に手ごろな価格だ。

デジタルでも中身は社債なので期限まで保有すれば元本は保証され、利率も預貯金よりも高い(下の表参照)。ポートフォリオに組み込む比較的安全な資産として新たな選択肢となる。

プロ向け商品にも投資可能

野村総合研究所の上級コンサルタントである周藤一浩さんは、「デジタル証券は企業にとって魅力的な資金調達手段だ」と指摘する。

「デジタル証券ではブロックチェーンなどで投資家名簿を管理しており、通常は証券保管振替機構に委ねている投資家名簿の管理を発行企業が自ら行える」(同)

今回社債を発行した2社は、クレジットカードのポイントや暗号資産(仮想通貨)を追加金利やオマケとして投資家に付与した。「そうした形で自社のサービスや商品を体験してもらうことでファンを増やせる」(周藤さん)

これまで発売された社債以外のデジタル証券では、不動産を裏付けとする信託受益権をデジタル証券にした不動産STが多い。

「何十億円もする投資物件や一般には出回らない物流施設も、デジタル証券なら1口50万~100万円などの少額で買うことが可能だ。分配金の原資は基本的に賃料なので、少額投資でも利益を得る仕組みは従来の不動産投資とは変わらない。新しい不動産投資の商品として、幅広い層に受け入れられる可能性がある」(周藤さん)

分配金は年に2回などで、「毎月の家賃収入」にはならないが、少額投資でも口数分の賃料収入を得られる。「物件が償還時に売却される場合、評価額が購入時より上がっていれば、スキームによっては持ち分に応じた値上がり益も得られるケースもある」(周藤さん)

物件を持つ不動産会社が証券業のライセンスを取得して不動産STの販売に注力する動きや、購入した権利を売買する市場をつくる動きもある。資産形成の新たな投資対象として知っていて損はないデジタル証券。次回から詳しく見ていこう。