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仮想通貨、「4度目の正直」の条件(大槻奈那)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB12AB50S2A710C2000000

 

相次ぐ不正と破綻

発端となったのは5月上旬、ドルなど法定通貨と価値が連動するよう設計されたステーブルコイン「テラ」の暴落だった。ピーク時の時価総額は4兆円にも上っていた。

次いで6月上旬には、米連邦取引委員会(FTC)が仮想通貨業者のエミニFXをマルチ商法の疑いで摘発した。同じく仮想通貨業者のワンコインもマルチ商法の疑いが持たれており、「クリプト・クイーン(仮想通貨の女王)」と呼ばれた創業者らが米連邦捜査局(FBI)から指名手配されている。

さらに足元で経営の行き詰まりが相次いでいるのは、仮想通貨レンディング(貸し出し)業者である。大手のセルシウス・ネットワークが6月13日に出金停止を宣言したのに続き、ボールド、ボイジャー・デジタルなどが相次いで出金停止や倒産申請に至っている。

仮想通貨の貸出先はまだ信用取引やマイニング(採掘)業者などに限定されていた。一方で高配当に引き寄せられる投資家が急増し、レンディング業者が相次いで運用難に陥ったとみられる。一部ではポンジ・スキーム、つまり新規流入資金を配当に回す「たこ足配当」が疑われている。

経営難は投資ファンドにも波及した。7月上旬にシンガポールの仮想通貨ヘッジファンドのスリー・アローズ・キャピタルが米連邦破産法15条(複数国に資産を持つ企業の倒産法制)を申請した。

6月には仮想通貨ファンド、ギャラクシー・デジタル・ホールディングスのマイク・ノボグラッツ最高経営責任者(CEO)が「仮想通貨ヘッジファンドの3分の2が破綻する」と予想していた。この見方は極端だとしても、レバレッジを掛けている仮想通貨ヘッジファンドのリスクは否めないだろう。

こうしてすっかり影をひそめてしまった仮想通貨市場に復活はあるのだろか。

復活に必要な3要素

仮想通貨には2012~13年、17年、21~22年と、09年の取引開始以来3回のブームがあった。しかし毎回、ピークから70%前後下落し、2度と復活しないと市場から見放されつつも、前回のブームを大きく上回る復活を遂げている。

こうした過去の経緯を踏まえると、仮想通貨市場の復活には以下の3つの条件が必要だと考える。

1つ目は金融市場のリスクオン・ムードだ。今年3月末以降、ビットコインは50%前後下落しているが、前述の様々な企業の不正や経営難と結びつけて報じられるので、それが下落の主要因だと思われがちだ。もちろん、あまりに続く悪いニュースが無関係とはいえないものの、実は19年以降のビットコインの価格は、対数を取ってみると米国のナスダック総合株価指数との相関が極めて高いことがわかる。

それ以前は東証マザーズ指数との相関が高かった。つまり、その時々のメインプレーヤーの所在地の高リスク市場と連動していた。だとすると仮想通貨相場復活のためには、新興株式市場等のリスクオン・ムードが必須条件といえる。

次に必要なのは「ナラティブ」だ。そもそもなぜ仮想通貨、特にレンディング業者にそこまで資金が集まってしまったのか。

不正の多くはバブルの醸成期に火種が膨らみ、バブルの崩壊前後に発覚する。史上最大7兆円とも言われるポンジ・スキームの証券詐欺「マドフ事件」も08年のリーマン・ショック直後に発覚し、破綻した。今回の仮想通貨レンディング業者に資金が集まったのも世界的なマネーの肥大の影響が大きかったと思われる。

しかし、マネーが膨張するというだけでは仮想通貨レンディングに資金が流入したことの説明としては不十分だ。もちろん低金利下で高利回りをうたっていたせいもあるが、数百億、数兆円単位の資金を集めるには、多くの人を心酔させる「ストーリー」が必要だ。

13年にノーベル経済学賞を取ったロバート・シラー教授は、様々なバブルはそのナラティブ、すなわち何らかの物語が人々を強烈にひきつけることで発生すると分析する(「ナラティブ経済学」)。例えば日本の土地バブルは、1970年代の「列島改造計画」で日本各地の開発期待が盛り上がり、不動産価格は下落しないという土地神話がナラティブとなった。

仮想通貨は2009年の登場以来、「お金の未来(Future of money)」というバズワードとともに、ICO(仮想通貨技術を使った資金調達)、STO(デジタル証券の発行による資金調達)、分散型金融(DeFi)などといったナラティブで、若年層や新興企業創業者のマネーを引き寄せた。

最後に必要なものは新たなプレーヤーだ。12年の黎明(れいめい)期には、「サトシ・ナカモト」という日本人めいた匿名の発明者が日本で話題になった。当時世界最大の取引所だったマウントゴックスは東京・渋谷に本社を構えた。17年には日本の金融庁が世界に先駆けて規制を整備した。当時のビットコインへの流入通貨のトップは日本円で、一時期は取引額全体の4割を超えていた。

代わって20年以降の仮想通貨価格急騰時の主役は米国だった。頓挫はしたもののフェイスブックによるデジタル通貨「リブラ」開発、若者たちのカリスマであるイーロン・マスク氏の仮想通貨支持やテスラによる投資などが強いナラティブとなった。この頃から欧米の機関投資家も市場に参入し始めた。

新興諸国に活発化の芽

足元でこれら3要素の動向はどうか。依然米国のリセッション(景気後退)懸念がくすぶるものの、株式市場ではベア(弱気)な見方が一時期よりはやや後退したようにも見える。

ナラティブとしては依然、一般化はしていないが、Web3(ウェブスリー)、メタバース(仮想空間)などの夢が語られつつある。

プレーヤーについてはこれまでほどの大きな変化は見当たらないものの、7月初旬にロシア最大の銀行ズベルバンクが最初の仮想通貨取引を行うなど、ロシアの動きは気になるところだ。

その他、ドルに対して自国通貨が下落している新興諸国でも仮想通貨投資が活発化する可能性はある。条件が整うまで相当時間がかかるとは思われるが、「4度目の正直」も非現実的ではないだろう。