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楽器、金属高騰で値上がり 吹奏楽部や愛好家悲鳴

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC215BM0R20C22A6000000

 

原料の金属や木材価格が高騰。輸入品も多いため、物流費の上昇や円安傾向も逆風だ。新型コロナウイルス禍の巣ごもり需要で新たな裾野が広がり、音楽関連の部活動も本格的に再開してきた。急激な値上がりは演奏を楽しむ流れに水を差しかねない。

「衝撃的な改定幅」(都内大手の下倉楽器)。5月、バストロンボーンの値上げに業界が騒然となった。希望小売価格が一気に22万6千円(30%)引き上げられたためだ。7月の再値上げでは103万2900円になり、2年で4割上昇。値上げが続く楽器の中でも管楽器の上げ幅は大きく、サックスの人気ブランドの仏セルマー製も、今年2回の値上げで定番品が約12万円上がり約74万円になった。

部活動用の楽器、追加購入難しく

木管楽器のクラリネットやサックスの吹く部分に使う「リード」は、植物由来の細長い板。次第にすり減って良い音が出なくなるため、練習量が多い中高生なら月1回程度買い替えることもある。

ところが国内の輸入代理店、野中貿易(横浜市)は、今年2度目の値上げを決断せざるをえなくなった。6月下旬に希望小売価格を385~990円ほど引き上げた。国内で使われるリードの主流メーカー、仏バンドーレン社の輸入品が円安やロシアのウクライナ侵攻による物流混乱で値上がりしたためだ。クラリネット用の定番品は今年に入ってから1箱で計550円値上がりし3850円になった。消費税率が低く円高だった2012年に比べ75%高い。

脱炭素と競合続く

総務省の17年公表の調査では、日本の楽器演奏人口は10人に1人に上った。10~14歳が33%と最も高く、次いで15~19歳が24%と、音楽文化を支えるのは若者だ。コロナ禍の20年は部活動休止や社会人楽団の演奏会延期などで一時的に演奏機会は減ったが、在宅時間の増加はギターやピアノを始める契機にもなった。

ただ、この「おうち時間」を楽しむ楽器も値上げラッシュだ。下倉楽器によるとピアノやギターは高騰する木材を使うほか、エレキギターなどは消耗品の弦がおおむね1~2割高いという。弦はEV電池にも使う希少金属のニッケルが主原料でLME3カ月先物は3月に過去最高値を付けた。半導体不足でギターの演奏音に効果を与えるエフェクターやアンプも約2割高い。

サックスやトランペットでは、割安な日本メーカーの楽器の普及を期待する声もある。ある中堅楽器店は「海外ブランドよりも安定して入荷できる日本のヤマハなどを客に薦めている」という。だがヤマハに聞くと「楽器はブランド志向が根強く、値上がりしても欧米の老舗メーカーの人気が根強い」のだという。

金属価格は足元で下げ基調となっているが、長期的には脱炭素需要と競合する。ライブや演奏会などの活動は再び活発になり、音楽のともしびは消えていないが、楽器の値下がりは期待しにくいだろう。

バンドデビュー、高値の花に?

音楽題材の人気アニメ「のだめカンタービレ」や「けいおん!」「響け!ユーフォニアム」などに感化されギターやピアノを始めた若者は多い。

楽器の値上がりが続けば音楽愛好家が減る要因になりかねない。流通経済大学の八木良太教授は「高校生がバンドを組んでデビューしたような、気軽に楽器を始めてプロの演奏家になった成功モデルが徐々に失われるのかもしれない」と話す。