ミャンマー、日系企業参画の不動産開発停滞 政変影響

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM042JO0U2A700C2000000

 

日系企業が参画する3件の大型案件だけで計13億ドル(約1800億円)の総事業費を想定したが、国軍のクーデターが起きた2021年2月からいずれも工事を中断している。外国人旅行客や中間所得層が見込めなくなり、国の将来の見通しが立つまで「塩漬け」となる可能性が高い。

 

ヤンゴンの国軍博物館跡地に、北側の半分が灰色のシートで覆われた建物が建つ。大和ハウス工業傘下のフジタ、東京建物、官民ファンドである海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)が現地企業アヤヒンター・グループと開発を進めていた複合商業施設「Yコンプレックス」だ。ヤンゴン中心部から近く、外国人居住者も比較的多い地域だ。

軍との関わりを警戒

当初計画では総事業費3.3億ドル(約450億円)を見込み、21年に開業を予定していた。オフィスとショッピングモールを備え、ホテルオークラが入居する予定だった。だが、約7割の工事を終えたところでクーデターが発生し工事は全面的にストップした。黄色の数基のクレーンは現在も現場に残ったままだ。

東京建物は「事業を全面的に停止することになった」として、21年12月期に68億円、大和ハウスも22年3月期に90億円の損失をそれぞれ計上した。JOINは「守秘義務がある」として損失額を開示していない。

Yコンプレックスの事業再開が難しい背景には事業地の性格がある。非営利組織「ジャスティス・フォー・ミャンマー」などの調査によると、土地は国軍の「所有地」とされ、賃料は軍が管理しているとみられる銀行口座に入金することになっていた。このため、国軍の資金源になるとの批判を浴びている。

事業者側は、土地は「合弁相手であるミャンマー企業から転借」しており、合弁相手は「国防省から事業用地を借り受けている」と説明。クーデター以後は賃料の支払いは「実施していない」という。

軍と直接かかわっていない他の不動産開発案件も、厳しい状況にある。主要な入居者と見込んでいた外国企業の投資が止まり、将来への不安に直面する中間所得層の消費も従来のような成長が期待できないからだ。仮に工事を進めようとしても、ミャンマー国内の外貨不足で建設資材の輸入は難しい。

減損損失の計上相次ぐ

鹿島とJOINが手掛ける「ヤンキン地区複合開発」では、工事再開の延期を見越して建設現場を風雨から保護するなどの現場作業を進めており、7月中に完了する予定だ。関係者は「自社の責任で投資を始めた以上、簡単には撤退できない」と強調するものの、現時点では工事を再開する時期のメドが立っているわけではない。鹿島は22年3月期にミャンマー事業に関連して約160億円の減損損失を計上した。

三菱商事三菱地所は、現地の有力企業であるヨマ・グループと組み、ヤンゴン中央駅に近い市街中心部で、オフィスや商業施設、ホテルなど4棟からなる「ヨマ・セントラル」を建設中だった。クーデター以前は多数の建設労働者が働いていたが、21年2月以降は無人の状態が続く。

隣接地では、旧国鉄本社ビルのれんが造りの建物の一部を活用して高級ホテル「ペニンシュラ・ホテル」の建設が進んでいた。同ホテルに出資する香港上海大酒店(ホンコンシャンハイ・ホテルズ)は22年3月、総事業費1億3000万ドルに対し8700万ドルの減損損失を計上した。

新型コロナウイルスが落ち着いたこともあり、ヤンゴンでは表面的には「正常化」が進むが、国軍の統治に対する市民の反発は根強い。国軍側に迎合して工事を再開したと受け取られれば武装グループの標的になりかねず、各社とも慎重にならざるを得ない。

一方、工事中断により建設現場で働いていた人々の雇用は失われた。国際労働機関(ILO)の推計によると、クーデター前に110万人を雇用していた建設業では3割に相当する35万人相当の職が失われた。「有能なエンジニアや熟練工は職を求めて海外に流出しており、事業再開が決まっても人材が集められない可能性もある」(開発事業者)という懸念もある。