https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB13C6B0T10C22A7000000
6月上旬、ワシントンのイベントで、暗号資産(仮想通貨)を組み入れた年金運用について語気を強めた。米資産運用大手フィデリティ・インベストメンツが4月、確定拠出年金(401k)プランで、業界で初めてビットコインへの投資を可能にすると発表していた。
イエレン氏の懸念は的中する。ビットコインの価格は6月中旬に3万ドル台から一気に2万ドルを割り込み、わずか1週間で時価総額の3割が消えた。仮想通貨全体の時価総額は、ピークだった2021年11月の3兆ドル近くから直近までに約2兆ドル(約280兆円)減った。
年金が仮想通貨を運用対象に加えたのは、株式など伝統的な金融資産と違う値動きをする代替資産としての期待からだ。だが実際には、仮想通貨も株式と同じように世界の中央銀行の金融緩和で価値を押し上げられ、利上げ局面に入ると急落した。
スリー・アローズ・キャピタル(3AC)、ボイジャーデジタル、セルシウス・ネットワーク――。7月に入って仮想通貨関連のファンド・企業が相次いで米連邦破産法を申請した。3ACはシンガポールのヘッジファンド。ボイジャーとセルシウスは米国の仮想通貨の融資会社だ。
米ニュージャージー州に拠点を置くボイジャーは40%という高利で投資家から資金を集め、3ACに多額の資金を無担保で貸し込んでいた。セルシウスも3ACに対して債権を持つ。3ACは「DeFi(分散型金融)」と呼ばれる管理者のいないコンピュータープログラムで動く金融プラットフォームで資金を運用したが、仮想通貨急落で損失が膨らみ、破綻の連鎖を招いた。
サブプライムローンは証券化商品を通して多くの投資家に損害をもたらしたが、仮想通貨では関連するデリバティブ(金融派生商品)に警戒が集まる。各国の金融当局者が集まる金融安定理事会(FSB)は2月公表の報告書で、大手銀行やヘッジファンドなどの「仮想通貨に関するデリバティブを用いた複雑な投資戦略」に警鐘を鳴らした。リスクの引き受け手が複雑に絡み合い、思わぬ損失につながる恐れがある。
投資会社ギャラクシー・デジタル・ホールディングスの最高経営責任者(CEO)、マイク・ノボグラーツ氏は「1900もの仮想通貨ヘッジファンドが存在する。私の推測では3分の2が破綻する」と語る。米ウォール街から仮想通貨の世界に飛び込んだ同氏の予言が実現すれば、金融システムの「アリの一穴」となりかねない。

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