https://www.nikkei.com/article/DGKKZO62804750R20C22A7EN8000/
円安局面による為替差益が見込めることに加え、日米の金利差による金利収入も得られる点から取引が過熱している。取引量は統計を遡れる2008年以降で過去最高。円高に振れてもFX勢がドルを押し目買いして、円安を助長させる構図となっている。
21日午後、日銀の金融政策決定会合後に黒田東彦総裁が記者会見を開いた。金融緩和の継続は想定通りだったが、会見中に円相場は一時1ドル=138円60銭と30銭程度下落した。あるFX業者は「改めて低金利通貨としての円が意識され、今回も円売りの注文が増えた」と話す。
FX投資家の間で円売りが広がっている。QUICKがまとめた店頭FXの売買比率によると、15日時点のドル買い・円売りの比率は60%にのぼる。3月には円安が一服するとの思惑から一時36%まで低下したが、米連邦準備理事会(FRB)の利上げによる日米金利差の拡大などにより、5月中旬ごろから円売り圧力が強まっている。
ある個人投資家は「年初から対ドルで20円以上も円安が進んでいるにもかかわらず、日銀は金融政策を維持している。いくら為替が動いても緩和スタンスは変わらないと確信した」と話す。
FX投資家が強気に円売りを仕掛けるのは円が下落した際に得られる為替差益に加え、日米の金利差による「スワップポイント」があるからだ。ドル買い・円売りの取引では、ドルの金利を受け取る一方で、円の金利を支払う。足元では米国の金利の上昇で金利差の収益が得られる仕組みだ。
例えば外為どっとコムで1万ドル(約138万円)分のドル買い・円売りの取引をした場合、1日60円程度のスワップポイントを受け取れる。米国が利上げを進めたことでポイントは3月の15円程度から4倍に膨らんだ。FRBは今後も利上げを進める姿勢を示しており、ポイントはさらに拡大するとの見方は多い。
為替相場が変動しなくてもドル買い・円売り取引で得られるスワップポイントは投資家にとって魅力的に映る。6カ月前にFX取引を始めた20代の個人投資家は「金利差から得る収益だけでもうまみがある」と話す。
為替市場の値動き拡大による収益機会が増えていることもFX勢を引き付ける。対ドルの円相場の値幅をみると、21年の1日の平均は0.5円だったが22年は1円と2倍に拡大。損をするリスクも2倍になるが貿易収支の赤字が続き、日米で金融政策の方向性が異なる中で相場が反転するほどの円高材料は乏しい。円相場が急激に上昇するとの不安は小さいようだ。
楽天証券の荒地潤氏は「円安局面を好機とみて、FX取引を新たに始める個人投資家が増えている」と話す。金融先物取引業協会がまとめた店頭FXにおけるドルと円の取引量は6月に7兆ドルを超えた。統計を遡れる08年11月以降で過去最大の規模となった。
膨らむFX勢の円売りは円相場の重しとなっている。記録的な円安・ドル高水準で、利益確定の円買い・ドル売りも相次ぐ一方、「少しでも円高になるとFX勢がすかさずドル買い・円売りを入れている」(邦銀の為替ディーラー)。
FX投資家は「逆張り」を好み、相場が一方向に進むのを食い止めるバランサーとしての役割も果たしてきた。円買い材料が乏しい今回の局面ではさらなる円安を誘う動きとなっている。
(犬嶋瑛)

コメントをお書きください