「食べログ」訴訟で笑うのは 内弁慶で済まない当局

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO62807650R20C22A7EP0000/

 

痛快な出来事を目の当たりにしたとき、私たちは別の角度からものごとを見ることを忘れがちになる。だからグルメサイト「食べログ」に点数を下げられたチェーン店が裁判で勝訴したときも、弱い者いじめをただす画期的な判決だとほとんどの人が喝采した。

私もそのうちの一人だった。大手プラットフォーム企業と中小飲食チェーンの対決という1対1の構図と、その結末に引き込まれていた。だが、訴訟の影響を考えるなら1対1の結末に目を向けるだけでは不十分だ。

今回の訴訟は、焼き肉・韓国料理チェーンを展開する韓流村(東京・港)が食べログによるアルゴリズムの変更で、チェーン店という理由だけで点を下げられたことへの怒りから提起した。

損害に結びつく不意打ちのようなアルゴリズム変更を、独占禁止法違反とした6月の東京地裁の判決はうなずける内容だった。だが当時、ソーシャルメディアなどで気がかりな声もあった。「食べログより最近はグーグルマップをよく見る」

1対1に目を奪われがちだが、訴訟の影響を考えるならプラットフォーム同士の競争にも目を向ける必要がある。いま目の前で起きていることは、かつての勢いを失いつつある日系グルメサイトが下手を打っている隙に、巨大テック企業によるグルメ分野への進出が加速するという現象ではないだろうか。

ある日を境に評価点が一気に下がった食べログのアルゴリズム変更は、点数の変化が裁判の証拠になるくらいお粗末だった。ある独禁法専門の弁護士は「米国の巨大テック企業ならばれないようにアルゴリズム変更をやったはずだ」とみる。

国内市場で戦う内弁慶の日本企業と世界で戦うグローバル企業では、サービス水準などはグローバル企業が上になりがちだ。法務や当局との折衝機能も手厚い。

競争政策などを強化しても、下手を打って処罰されるのは日系企業なのではないか。ここ数年、政府が巨大プラットフォーム企業対策を進めるなかで専門家らは陰で心配していた。

訴訟は続くが、安易でうかつなアルゴリズム変更は今後しにくくなった。日本企業と巨大テック企業で「安易でうかつ」ではないアルゴリズム変更をする力はどちらが上だろう。

訴訟で、公正取引委員会が議論してきた「アルゴリズムの不当な運用」が独禁法の問題になることが実証された。名も無きチェーン店経営者が身をていして大企業に挑んだことで、公取委はプラットフォーム企業に対抗する武器=判例を得た。武器を誰に振るうのか企業も専門家も注視している。