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希少性や実物としての裏付けから「安全資産」とされる金は一般的に景気後退懸念が強いときに買われやすい。現在の景気懸念はインフレ抑制を狙った急激な金融引き締めが原因なだけに、インフレ圧力の低下を売り材料と捉える投資家が多いようだ。
国際指標となるニューヨーク先物は20日、一時1トロイオンス1690.1ドルまで下落し11カ月半ぶりの安値をつけた。年初来高値(2078.8ドル)をつけた3月上旬と比べ約2割安い水準で推移する。
要因の一つは市場のインフレのピークアウト観測だ。物価が下がると通貨価値は上がるため、金は売られやすくなる。6月の米消費者物価指数(CPI)の上昇率は前年同月比9.1%と40年半ぶりの高さを示すなど、衰える気配は一向に見えない中、市場は数年先を見据えている。物価連動債から算出する今後5年間の期待インフレ率は2.6%台と3月のピークから1%近く下がっている。5年先5年にいたっては2.0%台と米連邦準備理事会(FRB)の物価目標値とほぼ合致している。
「多くの投資家がインフレは高止まりするとみて金を買っていたが、足元の価格下落はインフレがピークアウトするとの見方が増えた証拠」とマーケットアナリストの豊島逸夫氏は話す。
市場で景気後退への懸念が高まった場合、希少性や実物資産として金は買われやすいとされる。カナダのビジュアルキャピタリストによると、1973年以降の7度の米景気後退時、金の価格は景気後退直前と比べて上昇したケースが6回あった。ただ、直近の01年、08年、20年の景気後退時にはFRBが金融緩和に踏み切ったことで金利が低下。債券と比べ金利のつかない金の投資妙味が増して価格が上がるなど、現在の金融引き締めに伴う景気後退懸念とは背景が異なる面もある。
金の実需が伸び悩んでいることも価格下落に影響している。世界の金消費量の約半分を占める中国とインドの動向をみると、中国は「ゼロコロナ政策」の継続で一部地域で行動制限が続き、金の販売は伸び悩む。インドもインフレに伴う貿易赤字を改善するため7月から金の輸入関税を引き上げており、こちらも買い意欲に乏しいようだ。
もっともインフレが市場の想定通りに収まるかは懸念も多い。特に欧州はウクライナ危機に伴うエネルギー高に加え、欧州中央銀行(ECB)がFRBほどの大幅な利上げには踏み切れないとの見方から、インフレと景気悪化が共存する「スタグフレーション」への不安が強まっている。「スタグフレーションのような状況に陥ると、金にマネーが流入して過去最高値(2089.2ドル)を超える展開もあり得る」と日本貴金属マーケット協会の池水雄一代表理事は話す。
米ゴールドマン・サックスはインフレが高止まりするとして、6月中旬、金は3カ月後に2100ドル、12カ月後に2500ドルをつけて過去最高値を大きく更新すると予想し、7月上旬でも予想を据え置いた。マネーが金への流入に転じて輝きが大きく増す場合、世界経済への警戒感はさらに強まっていそうだ。

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