インバウンド コロナ後狙うは超富裕層 自民議連、弱点洗い出し

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新型コロナウイルス禍からの経済の正常化に向けてインバウンド(訪日外国人)をいかに多く受け入れるかが課題になる。先を見据え世界の超富裕層を日本に呼び込む方策を練る議員連盟が自民党にある。

「ラグジュアリー観光議員連盟」(会長・河野太郎広報本部長)は2021年末に発足した。コロナ禍で中国人観光客を含め訪日客が「蒸発」した傷は癒えない。

いまの段階から高額消費につながる富裕層にも選んでもらえる国でなければ正常化はおぼつかない。河野氏は「役所に任せていても戦略は描きづらい。政治家が真面目にやらないといけないと考えた」と話す。

5月末の議連の会合で、議連の甘利明顧問は観光庁幹部を諭すように課題をあげた。「50万円払う人も1億円払う人も日本ではどこでも同じように並ばなければいけない。大金持ちは並ばされるぐらいなら来ない」

議連でのヒアリングなどを通じ、甘利氏らには富裕層受け入れへの弱点や甘さが見えてきた。

観光庁が民間調査をもとに作成した推計が日本の現状を映す。米欧の4カ国とオーストラリアの富裕層にとって、日本での海外旅行の消費額は11~36位だった。

2019年のデータに基づけば訪日客に占める富裕層の比率は1%に満たない。一方で消費額は全体の12%近くに達した。議連事務局長の三宅伸吾参院議員は「もっと来たくなる国になれば観光はさらに成長産業になる」と、テコ入れ次第だと指摘する。

日本に足りないものはまだある。海外の超富裕層は移動の手間を極力省く。プライベートジェットで訪れヘリコプターに乗り換えられるような空港は日本にほぼない。

スイートルームが整った宿泊施設も少ない。三宅氏は「世界の一流企業の幹部会議なら1泊100万円の部屋が30人分ないといけない。日本にはない」と語る。

超富裕層が使うのは一般的な旅行ツアーではなく、高額でも唯一無二の旅行体験を求めている。アレンジできる民間人材が乏しい現実もある。

議連は規制緩和や予算の拡充などを首相官邸や関係省庁に働きかけてきた。課題の洗い出しも進めている段階で、甘利氏は続ける。

「一般の旅行者の100倍消費してもらおうという世界だ。欧州では城を一晩貸し切りにして1億円使う人がいる」。富裕層は逃してはいけないお客様だという危機意識が広がってきた。

議連の発足前、河野氏は菅義偉政権で規制改革相を務めた。その際、超富裕層を呼び込みやすくする政策を進めた経験がある。

例えば日本では関税がかからないエリアで美術品のオークションができなかった。海外からのイベント開催が難しかった。河野氏はルール変更を自ら申し出て実現に道をひらいた。インバウンド向けでの応用も探る。

議連の幹事長代理、宮崎政久衆院議員は「著名人などが日本に旅行し、ファンになってもらえれば観光外交につながる」と強調する。海外の富裕層はSNS(交流サイト)での影響力も大きい。日本のイメージアップにもつながるとみる。