HIS、財務悪化で窮余の資金創出 ハウステンボス売却

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC212J60R20C22A7000000

 

香港の投資会社を視野に調整を進めている。かつては収益を支えたハウステンボスを売却する背景には、新型コロナウイルス感染拡大で海外旅行とテーマパークの需要が急減したことがある。新規事業の育成や不動産などの資産売却を進めてきたが、2021年10月期まで2期連続の最終赤字に陥るなど財務状況が悪化。主力である店舗を主体とした旅行事業が先細るなか、ハウステンボス売却後の新たな成長事業の軸足はまだ見えない。

HISは21日、ハウステンボスの売却について「株式の譲渡を含め様々な検討を行っているが、現時点において具体的に決定した事実はない」とのコメントを発表した。

ハウステンボスは1992年に開業したが、入場者数の低迷で2003年に経営破綻した。野村ホールディングス傘下入りを経て、HISが10年に買収。西部ガスホールディングスJR九州など九州の地元企業5社も出資し、経営再建を進めてきた。

一時は連結営業利益の半分近くを稼ぐ主力事業のひとつに育った。ただ、コロナ禍以降は訪日外国人(インバウンド)需要の蒸発などにより来場者数が減少。21年10月期のハウステンボスを含むテーマパーク事業は35億円の営業赤字となっていた。足元では行動制限の緩和などもあり、ハウステンボスを含むテーマパーク事業は22年10月期に入場者数の回復などで3期ぶりの営業黒字となる可能性が高い。

回復の兆しがみえたなかでハウステンボス売却を決めたのは、コロナ禍で急速に悪化する財務の安定が急務となっているからだ。

海外旅行の需要低迷などを受け、19年10月期に約8085億円だった連結売上高は、21年10月期に1185億円まで減少。21年10月期の最終損益は過去最大の約500億円の赤字となった。21年11月~22年4月期連結決算も最終損益が269億円の赤字だった。22年4月末の自己資本比率は6%と、21年10月末に比べて4ポイント低下。コロナ前は15~20%だった。

財務状況改善に向けて、同社はコロナ禍で第三者割り当てや新株予約権の発行など資本増強を実施した。日本政策投資銀行(DBJ)からの借り入れも「選択肢の一つ」としているが、現時点で進展がみえない。

目先ではシンジケートローン(協調融資)の財務制限条項への抵触が大きい。HISは銀行団から345億円の協調融資を受けている。2期連続の経常赤字としないことと、純資産が前期比75%以上の水準維持という2条件があり、早急な財務改善が求められていた。

HISにとって、資金創出は窮余の一策に過ぎない。今後の黒字化や成長に向けた戦略を描き切れていないからだ。

コロナ前に多角化を目指して参入した電力小売事業は業績が悪化し、売却を余儀なくされた。21年には「Go To トラベル」給付金の不正受給が発覚。ガバナンスを巡る問題にも直面する。足元で進む円安も日本からの海外旅行にとって逆風となっている。

ハウステンボスには地元企業が出資しているほか、長崎県が推進する統合型リゾート施設(IR)の候補地にもなっている。佐世保市の朝長則男市長は21日、記者団に対して「資本の移動であるのなら、ハウステンボスがなくなるわけではない。IRへの影響はないものと思う」と話した。さらに「佐世保市にとっては、ハウステンボスの事業の継続と雇用の維持が重要だ」と指摘した。