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米年金、揺らぐ分散投資

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO62774330R20C22A7ENI000/

 

20日の米株市場はハイテク株中心に買われる展開となった。きっかけはネットフリックスが公表した2022年4~6月期決算。市場予想ほど悪くなかったことを受けて、投資家は「決算警戒モード」を少し緩めた形だが、本格的な相場反転を見込む声は少ない。そんな中で市場関係者の関心を引いたのは、米最大の公的年金が公表した厳しい運用成績だった。

 

米カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)が20日、前年度(21年7月~22年6月)の運用実績を報告した。収益率はマイナス6.1%とリーマン・ショック直後の09年以来、約13年ぶりに損失を出した。カルパースは4400億ドル(約60兆円)もの資産を運用する米最大の公的年金で、多くの市場関係者がその動向を注視する。日本の上場株も保有している。

 

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ニコール・ミュージッコ最高投資責任者(CIO)は同日の声明で「金融市場はかなり異例な状況にある」と指摘した。マイナスの収益率について「上場株式と債券の両資産が連動して下落したため、私たちの伝統的な分散投資戦略は、予想よりも効果が薄れてしまった」と釈明した。

年金基金のような長期投資家は伝統的に株式に4割、債券に6割を配分する戦略をとってきた。債券が安定した金利収入を生み出す一方、金融危機のような相場波乱に直面しても、株価下落を国債価格の上昇(金利は下落)で一部相殺できる、との考え方がベースにある。ゴールドマン・サックスによると「60対40」運用は過去100年間、年率平均5%のリターンを上げた実績がある。

ここにきてバランス投資戦略への信頼が揺らいでいる。米ブルームバーグ世界債券総合指数は22年1~6月に12%下落。米バンク・オブ・アメリカによると、国債に限れば1865年以降で最大の下落ペースだ。機関投資家が重視するS&P500種株価指数の下落率も前年末比で17%安(20日時点)となっており、株式・債券で大きな痛手を被った。

ウォール街では債券運用の「ヘッジ機能」を巡って論争が起きている。懐疑派はインフレと世界の中央銀行による積極的な利上げによって、国債価格は下落し、株式運用の損失を補填できないとみる。ゴールドマンの資産配分戦略責任者、クリスチャン・ミューラーグリスマン氏は「過去のプレーブック(戦略集)は通用しない」と言い切り、より積極的な運用を勧める。

 

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カルパースも手をこまぬいているわけではない。運用資産の多様化を狙ってプラベートエクイティ(未公開株)投資を拡充しているほか、借り入れで運用規模を膨らませる「レバレッジ」も導入した。レバレッジ比率は資産全体の5%にすぎないが、保守的な運用が基本の公的年金が、新たな領域に足を踏み入れている。

米公的年金の財政状況は総じて苦しい。カルパースの場合、将来の給付に必要な金額に対して72%しか積み立てられていない。前年度の82%から低下した。21年まで続いた強気相場で金融危機時の損失を回復できず、今日に至る。構造的なインフレで、60対40運用が機能不全に陥ると、積み立て不足解消はさらに遠のく。米国民が老後危機に直面するリスクはじわじわと高まっている。