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米投資ファンドのKKRが4月に最終調整に入ったスペインの医療会社イビルマ・グローバルの買収。一度は米バンク・オブ・アメリカなどの銀行団が8億ユーロ(約1100億円)の買収ファイナンスを勝ち取ったと華々しく伝えられた。だがその後、KKRは方針を一変。銀行団から離れ、ファンドから借りる方針に転じたという。
銀行が高いリスクに二の足を踏んだのか、KKRがより条件のよいファンドに飛びついたのか、真相はヤブの中。確かなことは、企業買収の際に買収資金を借り入れる「LBOローン」で、銀行ではなくファンドが直接融資するプライベートデットの存在感が急速に増していることだ。
5月にはオランダの製薬会社ノージンを米ゴールドマン・サックスの投資部門が約2500億円で買収を決めた。この資金もローン部分は全額ファンドからまかなった。
米連邦準備理事会(FRB)の急ピッチな利上げでも収まらないインフレ。景気後退懸念が高まるなか、銀行は融資に慎重な姿勢を見せ始めている。一方で、プライベートデットは融資に意欲的だ。金利上昇は利ざやを稼ぐ好機に映る。
約18兆ドルの米企業債務のうち、ファンドなどの占める割合は2割に達する。リーマン・ショックがあった2008年の5%から一気に増えた。
ファンドマネーは日本でも活発だ。KKRが4月に決めた日立物流の買収では、銀行からの買収ローンを使わず、KKRが運用するクレジットファンドから借り入れた。
KKRは直前に、法的整理に陥った自動車部品大手マレリホールディングス(旧カルソニックカンセイ)への投資でつまずいた。それもあって銀行側が資金を出し渋るとの見方があったが、融資ファンドから難なく資金を引き出した。
プライベートデットを手掛けるファンドは、金利が急上昇する前に投資家から集め、まだ活用しきれていない「ドライパウダー」と呼ばれる資金を抱える。金融情報会社プレキンによると21年末でプライベートデットの総運用額はおよそ1.2兆ドル(約160兆円)。その3分の1が手つかずで、投資余力は大きい。
総運用額はこの10年間で3倍、20年間で20倍になった。急成長の裏にあるのが金融規制の強化だ。08年の金融危機後、ゴールドマン・サックスなども「銀行」への転換を強いられ、厳しい資本規制下に置かれた。融資担当の幹部らは独立してファンドを立ち上げ、規制外の「影の銀行」の存在感が増した。
企業倒産は21年、比較できる01年以降で最低となった。金融市場は荒れ模様だが、多くの企業にはまだ累が及んでいないようにもみえる。だが、移ろいやすいファンドマネーに資金繰りを頼る構図には危うさも漂う。銀行規制外の「影の銀行」の規模は世界で200兆ドルに達する。巨額マネーの動きが金融システムの浮沈を左右する。

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