選手村マンションの「晴海フラッグ」、応募倍率111倍も 東京五輪レガシーの今(2)

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東京メトロ有楽町線の月島駅近く。東京五輪・パラリンピックの選手村として使われた大型マンション「晴海フラッグ」(東京・中央)のモデルルームがある。6月下旬に訪れると、平日午後にもかかわらず家族連れなどでにぎわっていた。所長の古谷歩は「五輪効果もあり、見学の予約枠がすぐ埋まってしまう」と話す。

晴海フラッグは東京・晴海の人工島に分譲と賃貸住宅を計5632戸を造る計画だ。2019年に2度販売したのち、五輪後の21年8月に営業活動を再開すると応募が殺到。11月に実施した3回目の販売では631戸の平均倍率が8.8倍で、最高倍率は111倍に達した。22年7月中に5回目の発売を予定しているが人気は衰えていない。

理由の一つは東京五輪のレガシー(遺産)としての知名度の高まりだ。五輪開催中に各国の選手が部屋のベランダに国旗を掲げ、室内の写真をSNS(交流サイト)に投稿する動きが目立った。国内では選手村跡のマンションとして認知され、海外でも物件の注目度は上がった。東京カンテイ上席主任研究員の井出武は「投資目的を含め、海外在住の外国人も購入している」と指摘する。

価格と広さも大きな魅力だ。最寄り駅から歩いて20分ほどと遠いものの、3.3平方メートルあたりの価格は300万円を下回る部屋が多く近隣の物件より2割ほど安い。4LDKの部屋を約1億円で購入した30代男性は「港区や渋谷区でも探していたが、なかなか見当たらなかった」と打ち明ける。「都心部で今後同じような物件はそう出ない」という希少性の高さも購入を後押しする。

晴海フラッグは当初は23年春に購入者に引き渡される予定だった。ただ、新型コロナウイルスの影響で東京五輪の開催が延期され、物件の引き渡し時期も1年延期となった。対応に納得できない購入者の一部は三井不動産など売り主側に補償を求める調停を申し立てた。賛否を巻き起こした物件でもあるが、販売は業界の予想を超える好調ぶりだ。

一方、今後の街づくりには課題や期待が混在する。例えば、最寄り駅から遠い問題はバス高速輸送システム(BRT)で解消を進める方針だが、本当に魅力的な街になるかを懸念する声も一部にある。思わぬ反響を生んだ東京五輪のレガシーに安住せず、街の価値を地道に高めていけるかが重要だ。(敬称略)