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百貨店はオワコンか そごう・西武売却にみるしぶとさ

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGH12BOW0S2A710C2000000

 

戦前から生き延びてきたのは「百貨店」

しかし、この見方は短絡的ではないだろうか。多数の取引先を束ね、同じ館の中で統一した世界観を作り上げるのは百貨店くらいだ。複雑な商慣習で参入障壁も高く、強固な富裕層の顧客基盤を持つ。日本の流通史で、戦前から生き延びて多店舗展開する小売業は、スーパーでもコンビニエンスストアでもない。百貨店だ。かつては古着店や呉服店として創業し、時代の変化に対応する形で進化して百貨店という業態に行き着いた。

越後屋(現三越伊勢丹ホールディングス、創業1673年)は「正札掛け値無し」(掛け売りをせず、現金で価格表示通りの商売)を宣言。今でいうディスカウントストアの革新的なビジネスモデルを約300年以上も前に編み出した。流通分野に詳しい伊藤元重東大名誉教授は百貨店について「しぶとい」と評したことがある。

長い歴史があればいろいろな艱難(かんなん)辛苦は当然だ。江戸時代には大火で店を焼失することはざら。そこからたくましく復興した。経営方針の食い違いから創業家や経営者を放逐するクーデターはこの業界ではお家芸だ。82年の三越、85年の松坂屋、93年の伊勢丹、2017年の三越伊勢丹が有名なところ。信用、信頼を重んじる百貨店だが、お家騒動のような世間の評判を落としてまで「暖簾(のれん)」「屋号」を守ろうとする百貨店固有のガバナンスが存在する。

加えて、同じ生命維持装置が各社に埋め込まれていると思われるくらい、軌を一にした大胆な判断をすることがある。立地が指呼の間にある競合相手の百貨店ともがっちり握手して、経営統合に持ち込む。大丸と松坂屋が統合したJ・フロントリテイリング、三越伊勢丹、阪急百貨店と阪神百貨店が統合したエイチ・ツー・オーリテイリングがあるが、どれも08年のリーマン・ショックの直前に統合を決断。独特の嗅覚が危機を察知し、統合という荒業によって財務体質を整え、100年に一度の危機を乗り切った。当時、三越社長として伊勢丹との統合を進めた石塚邦雄氏は「統合がなかったら三越はリーマン・ショック時にどうなっていたか」と述懐する。

「ベストオーナー」を選ぶ責任、社外取締役にも

幾多の危機をかわして、生き延びる鵺(ぬえ)のような存在の百貨店。そごう・西武の売却を目指すセブン&アイの井阪隆一社長は「ベストオーナーを探す」と言うが、それが売却額の大きさなのか、百貨店を残すことなのか、一等地の不動産再開発の妙味のことなのか、「ベスト」の解釈は立場によって大きく異なる。

そして売却の判断で重要な役割を演じるのがセブン&アイの役員陣だ。とりわけ5月の株主総会で承認された過半数を占める独立社外取締役の存在は大きい。世界トップクラスのグローバル流通グループ実現のために高度な知見を持った人材に違いないが、日本固有で進化する百貨店の社会的、経済的、文化的価値をどう評価するのか。雇用問題も絡み合う。

関係者によると、新任の社外取締役は優先交渉権の選定には関わっておらず、そごう・西武の現状について説明を受けている段階だという。

ベストオーナー探しの解。社外取は短期間で長い歴史で培った「しぶとさ」のDNAを理解できるのか。それとも優れた知見が新たなしぶとさを導き出せるのか。その責任は重い。

沿革で復活したそごうの名前は、灯滅(とうめつ)せんとして光を増すわびしさなのか、それとも百貨店再興の狼煙(のろし)なのか。その行方は数カ月以内にわかるはずだ。