https://www.nikkei.com/article/DGKKZO62705440Y2A710C2NN1000/
――欧州ではEC(現EU)が1987年に、留学を促進するエラスムス計画を始めました。
「当初は実験的な試みだったが、欧州の文化財ともいえる存在に成長した。約35年間で1000万人以上の若者が他国で学び、価値や哲学を共有する一助になった。エラスムス第1世代は親になり、子どもに国際教育を施している」
「留学は文化交流に加え、イノベーションももたらす。エラスムス経験者は政治や経済など様々な業界で活躍している。大学教員になっても昇進が早く、人材育成の効果は明らかだ」
――20代で研究員として来日しました。日本の人材育成の評価は。
「米欧はジョブ型など雇用形態が柔軟なため留学経験者が活躍しやすい。日本の学生は留学が新卒一括採用の時期と重なると就職で不利になる。海外で培った語学力や発想力、研究成果を生かす受け皿がなければ、留学意欲はそがれる」
「西洋の教育システムは、突出した才能を集中的に育てて革新を起こそうとする。学力格差が開くなど弊害も多い。日本では学生の能力が均質になるよう育てる。社会の安定には役立つが、才能を持つ人は放置されて能力が台無しになる」
――日本の高等教育は変われますか。
「賢さの定義を再考してみてはどうだろう。日本で頭の良い人とは知識の多い人だと考えられてきた。だが西洋では賢さとは、知識や情報がなくても自らの頭で考えて正しい答えを導き出すことだ。海外での学びをきっかけに、日本人の強みである知識の生かし方を考えてほしい」
(聞き手は松浦奈美)

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