債券価値、世界で2300兆円減 1~6月 債務依存の成長、転機 南欧など財政リスク

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6カ月の期間では遡れる1990年以降で最大となった。各国の金融引き締めで債券利回りが急上昇し、利回りと反対に動く価格は急落した。債券市場が収縮し、債務に依存してきた世界経済が曲がり角に差し掛かっている。下落が続けば、国債を多く持つ金融機関の経営リスクも高まる。

 

一定の時価総額のある債券を組み込む米ブルームバーグ世界債券総合指数は2022年1~6月に12%下落と、リーマン危機時の08年5~10月(6%下落)などを上回った。国際決済銀行(BIS)が集計する債券残高から推計すると21年末に142兆ドル程度だった債券価値は6月末に125兆ドル程度に減少した。

 

米バンク・オブ・アメリカによると、国債に限れば1865年以降で最大の下落ペースだ。債券を保有する金融機関や運用会社に広く損失が発生し、投資意欲が大幅に低下している。銀行は利上げに伴って融資する金利を上げているものの、保有債券で損失処理を迫られ運用で苦戦している。

国債では財政に懸念を抱える南欧諸国の国債利回りが上昇している。イタリア政府が6月末に発行した10年債の落札利回りは3.47%と8年ぶりの高水準となった。「エネルギーや食料高で家計を支援するための財政出動圧力が高まり、南欧や新興国の財政が行き詰まるリスクが意識されている」(みずほリサーチ&テクノロジーズの太田智之チーフエコノミスト)

社債では、格付けの低い企業に高い「上乗せ金利」が求められるようになった。オンラインカジノの英888ホールディングスが買収資金のために発行した社債では、引き受けた投資銀行が11%超と高い利回りを提示しても投資家の需要は鈍かった。米ブルームバーグ通信によると、22年1~6月に世界で70件以上の社債発行の案件が延期や中止になった。21年年間の37件の2倍近い。

新興国では金融システムへの不安がくすぶる。新興国政府は国債の買い手として自国の銀行に依存する傾向が強く、自国国債の価格が下落すると銀行の自己資本が減少する「破滅のループ」(国際通貨基金=IMF)が警戒されている。IMFの分析では、銀行の総資産に占める国債の比率は21年に17.2%と、2010~14年の12.7%から上昇している。新興国の銀行の信用格付けは引き下げが相次ぐ。

1998年のロシアや2001~02年のアルゼンチンでは、自己資本が目減りした銀行が貸し渋り、景気に悪影響をもたらした経緯がある。

欧州では新型コロナウイルス対応で発行した国債を銀行が保有し、イタリアでは銀行資産に占める自国国債の比率が12%程度と19年の10%程度から高まった。欧州中央銀行(ECB)は「パンデミックで国債と銀行の関係への不安が再び高まった」と指摘している。

国際金融協会(IIF)によると新興国を含めた世界の債務残高は300兆ドルを突破し、この20年あまりで約3.5倍になった。同期間の国内総生産(GDP)の伸び(約2.5倍)を上回る。

世界の債券利回りが平均1%上昇すれば、借り換えなどを通じ長期には1.25兆ドルの利払い負担の増加となる。低金利の環境下で債務に頼って成長を底上げしてきたが、その前提は揺らいでいる。