軽井沢、別荘地に吹いた3つの風 地価2年で1割上昇

富裕層の別荘が立ち並ぶ地区として知られるが、新型コロナウイルス禍で別荘購入者の裾野が拡大。充実した教育環境に引かれた移住者やワーケーション需要への期待という3つの要素が支えとなり、土地価格は2年間で1割超上昇した。世帯数より別荘の数が多い軽井沢に新たな風が吹いている。

「新型コロナで爆発的に購入者が増えた」。軽井沢駅近くの不動産会社の営業担当者は驚きを隠さない。コロナ前に土地や別荘、戸建てで約700件あった在庫は2021年末時点で400件まで減少。軽井沢の人気の高さを肌で感じる日々だ。

在宅勤務、リゾート気分……軽井沢がフィット

国土交通省によると、22年1月1日時点の軽井沢町の公示地価は全用途平均で6万2500円と前年比6.3%上昇した。住宅地と商業地はともに上がり、全用途平均は16年以来6年ぶりの高水準だった。長野県は26年連続で下落しているが、軽井沢町では、コロナ発生後の2年間の上昇率が11.8%に達する。

公示地価は土地売買時の一つの目安であり、実際の取引価格と乖離(かいり)することは少なくない。ただ、街の人気を示す値としても注目される。

土地価格が上昇した理由の一つが別荘だ。古くから政財界のリーダーらが別荘を持つ地に、「コロナ発生後、密にならない場所として購入する富裕層が増えた」(リストインターナショナルリアルティの福島麦・銀座オフィス支店長)。国内でリゾート気分を味わいたい年配者や在宅勤務を志向する経営者が土地や既存物件を取得した。価格は1億円以上だが、同社の成約件数は21年に12件と前年比6倍に増加。22年も成約件数や価格は高水準が続いている。

西武リアルティソリューションズの鈴木隆之・軽井沢営業所アシスタントマネジャーは「別荘に興味のなかった20~40代の経営者の問い合わせも増えた」と話す。西武グループは100年以上前に日本の別荘地の先駆けの「千ケ滝別荘地」を開発した。軽井沢では5年ほど前から別荘の建築が増えていたが、コロナ禍で1000平方メートル以上の大きな土地を購入して好みの別荘を建てる動きが広がった。

ファミリー層に人気拡大

「中軽井沢エリアで戸建て住宅を買うファミリー層が多い」。地元の不動産会社は新たな動きを感じ取る。20年に開校した私立の幼小中混在校、軽井沢風越学園に通わせるためだ。首都圏で暮らす30代以上の家族が移住してくる事例は多いという。

長野県の毎月人口異動調査によると、軽井沢町の人口は6月1日時点で1万9578人。転入から転出などを差し引いた「社会増」は21年が292人と高水準が続く。

軽井沢の土地価格の上昇は土地取引だけでなく、「将来の価値向上に対する期待感も含まれている」(東京カンテイの井出武上席主任研究員)との声も聞かれる。仕事と余暇を組み合わせた「ワーケーション」需要の拡大だ。

「パトリツィア・ジャパン」はワーケーション施設を使い社員の一体感を高める(6月、長野県軽井沢町)

三菱地所は20年7月、軽井沢駅から徒歩15分ほどのところにワーケーション施設を開業した。緑に囲まれた施設内に50~60平方メートルの部屋を3室用意。1日1室10万円(税別)で貸し出す。6月中旬、欧州の不動産ファンド大手、パトリツィアの日本法人の社員がくつろいだ雰囲気で議論をしていた。同社の中元克美社長は「在宅勤務が多かったため、社員同士がお互いを知ることで一体感のあるチームにしたい」と話す。

三菱地所によると「足元の申込件数は緊急事態宣言下と比べ10倍以上」といい、中長期的に利用企業は増えると見込む。訪日観光客の本格回復も予想されており、軽井沢のにぎわいは土地価格にも反映される可能性が高い。

海外旅行再開、高値に落ち着きも

軽井沢町の土地価格は経済の浮き沈みに連動しやすい。1991年にかけて急上昇したもののバブル崩壊後は一転して下落が続いた。一時持ち直したあとは2008年のリーマン・ショックで企業業績が悪化し、土地価格に再び下落圧力が強まった。地点の新設もあり単純比較はできないものの、22年の公示地価(全用途)はリーマン前の08年(7万9500円)より2割安い状態にある。

西武リアルティソリューションズの市野健二・軽井沢営業所所長は「土地価格は次第に落ち着いてくる」と予想する。海外旅行が本格再開され、富裕層のお金の使い方の選択肢が広がるためだ。もっとも、別荘地としての人気は高く、優良物件が出れば購入したい人は根強くいるだろう。

(原欣宏)

草刈りや清掃……、維持管理費の負担も

軽井沢に別荘を持つことに憧れる人は多いが、買った後も楽でない。軽井沢は湿気がある地域が多く、購入後も建物や庭の維持管理が大切になる。不動産会社によると、室内点検や緊急時の対応だけで年数万円必要といい、清掃や草刈りなどを含めると維持管理費が年数百万円に及ぶ別荘も少なくないという。富裕層の購入が多い裏には現実的な問題も関係している。