超少子化が促す「消費破壊」

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO62652020V10C22A7TCR000/

 

大げさな表現に聞こえるが、事実、2021年の婚姻数は過去最低を更新し、約50万組とピークの1970年代から半減した。内閣府が公表した「20代の独身男性の約4割がデート経験なし」というデータにも、驚かないぐらい「恋愛離れ」「結婚離れ」は広がっている。

こうした長期的なトレンドの結果、出生率の低下も進んでしまう。1人の女性が生涯に生む子供数を示す合計特殊出生率は1.30と6年連続で下がり、出生数は約81万人と過去最少になった。まさに超少子化時代が到来している。

個人消費でも若者や家族がけん引した昭和、平成の成功方程式は通用しない。超少子化はすなわち超高齢化だ。ニッセイ基礎研究所の久我尚子上席研究員は「高齢化が進めば、外食や飲酒など消費は当然落ちていく」と指摘する。

量的な「消費破壊」が起きそうな事態をどうすれば防げるのか。超少子化時代に対応し、創造的な破壊による質的な転換をできるかどうかに消費と企業の未来がかかっている。例えばセブン―イレブン・ジャパンでは1985年の客層を年齢別に見ると50代以上は9%にすぎず、20代以下が64%を占めていた。それが2000年になると50代以上が17%に上昇し、20代以下は50%を下回る。

21年になるとさらに大きく変動する。50代以上が36%に急伸し、20代以下は24%に低下した。こうした人口動態の異変はセブンイレブンの販売戦略を大きく変えてきた。商品本部長の青山誠一取締役執行役員は「雑誌やボリュームのある弁当と飲み物を求める学生が多かった80年代から商品構成はずいぶん変わった」と話す。90年代には生野菜の販売を伸ばし、こだわりの高いおにぎり、総菜の小容量パックなども増やしていった。

セブンイレブンは健康・プレミアム志向を打ち出し、成長を遂げてきた。国内総生産(GDP)の約6割を占める国内消費を盛り上げるにはこの点に尽きる。縮小する市場に対して低価格化で攻めても、需要の先食いに終わる。市場を細かく分析し、新たなニーズを探り出すビジネスモデルが欠かせない。小売りもメーカーもモノを売るだけの発想では限界がある。消費者の潜在的な悩みを見つけ、ソリューションを提供するコンサルティングサービス型へのシフトが超少子化時代の活路になる。

 

 

 

6月、玩具市場で常識を超えた出来事が起きた。業界2強のバンダイナムコグループとタカラトミーの「提携」だ。まずバンダイナムコのコンテンツ「機動戦士ガンダム」に登場する宇宙戦艦をタカラトミーのミニカー「トミカ」として、タカラトミーの人気玩具「ZOIDS(ゾイド)」をバンダイスピリッツが「超合金」として発売する計画だ。少子化への危機感がライバルの壁を取り払った。

もちろん子供向け玩具だけでは先細りを避けられない。タカラトミーの場合、「遊び」を切り口にしたビジネスへの転換を宣言した。一例がデジタルとトイ(玩具)、エンタメを融合した「デジトイメント」というコンセプトだ。デジタルだけではゲーム専業に勝てないので、デジタルと身体の双方を使うアプローチになる。

SNS(交流サイト)を組み合わせたデジタルヨーヨーや、パパとママの声を人工知能(AI)で合成して絵本などを読み聞かせる玩具など、子供から大人まで楽しめる領域の拡大に余念がない。

ベビー専門店大手の赤ちゃん本舗(大阪市)も90年代は商品を置くだけで飛ぶように売れたが、「これからは赤ちゃんに必要な商品・サービスを深掘りしてニーズを探すことが急務」(味志謙司社長)と話す。乳幼児の年齢や月齢に応じて商品サービスを提供してきたが、最近では「週齢」にまで狭めた。同社のアプリを通じて週ごとにきめ細かいアドバイスを発信し、購買につなげる。新たなベビーテックが胎動している。

 

 

 

紙おむつを扱う企業にも超少子化はど真ん中のテーマだ。花王は主力の「メリーズ」を売るだけのビジネスから、子育てプラットフォーム事業へ転身を図っている。妊娠期から顧客として関係をつくり、ママネットワークを形成し、おむつの締め付け具合と睡眠の因果関係をつかむ研究に取り組むなどメニューは多岐にわたる。

ランドセルやベビーカーの高級化もそうだが、少子化でも子供1人当たりでみた出費は増えている。メリーズ事業部の小出敏治ブランドマネジャーは「スナップショットのように瞬間瞬間の対応が中心だったが、これからは成長支援策が中心になる」と強調する。

様々な業界、企業が新たな取り組みに走り出している。共通するのは国内にとどまらず、国連推計で22年から人口減に転じる中国などの海外市場にも超少子化モデルの展開を考えている点だ。大きな世界観を訴えるメガブランド戦略を不得手とする日本企業には、むしろ市場と顧客の変化に寄り添う逐次対応型のビジネスが向く。そこを真のグローバル企業への突破口にしたいところだ。

もちろん人口減少のペースを少しでも抑えるような政策の拡充も欠かせない。「統計的に女性の方が消費性向は高い。子育てと働く環境の整備が進めば、消費も活性化する」(ニッセイ基礎研の久我氏)。「子は宝」を念頭に社会全体で創造と想像をめぐらさないと、日本の消費は壊れてしまう。