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「大家で余裕」ハードル高く 高利回り、手間欠かせず

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他人に貸して家賃収入を得るのが目的だ。「定年退職後も家賃収入があれば老後の安心につながる。将来、インフレになったら預金よりも実物資産の不動産で持つ方が有利」というのがその理由だ。

不動産投資は着実な収入を得る手段とされる。例えば4000万円でワンルームマンションを購入し、月14万円の家賃で貸せば、単純計算での「利回り」は4.2%。不動産の価格が上昇したら、売却して利益を確保してもよい。低金利の環境を生かし、購入資金の一部をローンで調達すれば会社員なども手が出せる投資になる。

給与所得者が不動産に投資する場合、固定資産税や建物の減価償却費などを費用として計上し、家賃収入を上回る「赤字」になったら、所得税の納税額を減らせることもある。相続税を抑える効果も期待できる。相続時に預金を持つよりも、不動産の方が相続時の評価額が低くなることが多いためだ。

そうしたメリットを強調して不動産投資を勧める事業者は多い。国土交通省の不動産価格指数をみると、今年3月のマンションの価格は2010年に比べ8割近く高い。都市部の好立地の物件が共働き世帯などに人気となっているほか、投資目的での購入も価格上昇を後押ししている面があるとみられる。

もっとも不動産価格が上昇した現在、資金力が限られる個人がワンルームマンションなどに投資することについては難しさを指摘する専門家が多い。かつて銀行で個人向け不動産投資ローンなどの販売に携わった、ファイナンシャルプランナー(FP)の高橋忠寛氏は「不動産投資は初心者にハードルが高い」と言い切る。

理由の一つが物件選びの難しさだ。不動産投資の利回りは大きく物件の購入価格と家賃収入で決まる。一般に借り手が見つかりやすい物件は購入価格が高い。物件の価格を抑えると借り手が見つからないリスクが高まる。中途半端な物件を購入し、借り手を確保しようと家賃を大きく下げれば利回りは低下する。

神奈川県に住む40代の男性医師は17年に3件のワンルームマンションを相次いで購入したが、20年までにすべて売却した。投資用マンションの販売業者から「所得税の節税になる」と勧誘を受けて始めたが、節税になった分を考慮しても3年間で数百万円の損失を出したという。

この男性医師は「何の知識も無く、業者に勧められるまま物件を購入してしまった」と反省する。物件の購入価格は相場よりも割高で、立地も良いとはいえず、短期間で入居者が出ていく例が相次いだ。空室になった期間は家賃収入はゼロ。購入資金のローン返済も重く「投資として割が合わない」と気がついたという。

空室リスクを避けるために業者が部屋を借り受けて入居者に転貸し、大家には家賃を保証する「サブリース」という形を取ることも多い。しかし、その場合は業者に手数料を払う分、利回りは低下してしまう。また、「家賃保証」をうたっていても、実際には契約から数年たつと家賃の引き下げを要求されることも多く、トラブルになりやすい。

物件を管理する費用も実質的な利回りを左右する。業者に任せる方法もあるが、費用が発生する分、利回りは下がってしまう。管理を自分でやれば費用は抑えられるが、手間がかかり、入居者とのトラブルなどのリスクを抱えることになる。

例えば、不動産会社を通じて入居者を募集する。入居者が決まれば契約して、毎月の家賃を集金したり、振り込みがあったかどうか確認したりする。滞納があれば督促する。エアコンやトイレなど設備に不具合があれば修理を手配して費用を支払う。入居者が退去すれば、ハウスクリーニングや壁のクロス貼り替えなどできれいにして、再び入居者を募集する。

入居者が部屋を適切に使わず破損させたり汚したりすることもある。家主側から退去を求めなければならないこともあるかもしれない。そうしたトラブルを自分で解決するのは容易ではない。

トラブル無く空室も出ず、きちんと家賃収入を得られた場合でも、不動産所得を計算し税務申告する必要がある。こうしたすべての作業を、ほかに仕事を持っている人が片手間に済ませるのはかなり難しいだろう。

投資用マンションやアパートを購入すれば特定の物件に何千万円も集中投資することになる。「分散投資のしやすさや流動性の面で実物不動産は金融資産より不利」とFPの高橋氏は指摘する。売却するときも時間と手間がかかり、急いで現金化したいときには大幅な値引きが必要なこともある。

FPの嶋田哲裕氏は、顧客から「不動産投資をやってみたい」と相談を受けたときには「不動産投資は一種の『事業』だと理解しておく必要がある」と説明している。期待する成果を出すためには「勉強しなければいけないことがかなり多い」ためだ。

不動産は金融商品と違って、一つとして同じものがない。少なくとも業者の説明をうのみにして物件を購入し、何もせずに高い利回りが得られると期待するのは危険だろう。家賃収入で余裕のある生活を送る理想的な「大家さん」になるのは決して簡単ではなさそうだ。

REIT、分散効果高く

不動産による家賃収入を狙うなら、不動産投資信託(REIT)という選択肢もある。REITは多くの投資家から集めた資金を賃貸住宅やオフィスビル、商業施設など賃料収入の見込める不動産に投資する。個人が現物の不動産に投資するより分散効果が高く、現金化もしやすい。個別のREITのほか、複数のREITに投資する投資信託もある。

ただし、REITも借入金を使って投資しているため「金利上昇はマイナス要因になる」(FPの嶋田氏)との指摘もある。値動きも比較的大きく、元本割れリスクには注意が必要だ。新型コロナウイルスの感染拡大が始まって間もない20年春には、東証REIT指数が直近の高値から約1カ月で50%近く下落したこともあった。

もう一つ、自宅の購入も「不動産投資の一種」と考えることもできる。嶋田氏は「自宅は収益を生むわけではないが、資産形成の有力な手段の一つではある」と指摘する。住宅ローンは不動産投資ローンよりもはるかに低い金利で借りられる。団体信用生命保険にも加入するので万が一のときの家族の備えにもなる。老後の年金生活でも家賃を払わずに住み続けることができる。自宅を売却し老人ホームなどの入居費用にあてることも可能だ。

(宮田佳幸)