円安、140円視野の裏側 米バブル動揺で「悪いドル高」

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ユーロも1ユーロ=1ドルの等価(パリティ)を割り込む水準まで売られている。その裏側には米国との金利差だけではなく、米株バブルの動揺に伴い企業や金融機関がドル資金の確保を急ぐ「悪いドル高」もあるとみられる。ドルの調達難はドル建て債務が多い海外企業の信用収縮を招き、世界経済が縮小均衡に陥るリスクを高める。

証券資金還流、2年で100兆円

ドルの総合的な強さを示すドルインデックスは14日、一時109台と2002年9月以来の高値を付けた。過去3カ月の上昇率は9%。同期間の「悪いドル高」のピッチは20年春のコロナショック(5%)を上回り、08年秋のリーマン・ショック(16%)に次ぐ。

米国への資金還流が止まらない。米財務省によれば、米国居住者による対外証券(株式と債券)投資は4月まで20カ月連続で売り越し(米国への資金流入超過)だ。20年のコロナショックからの累計額は7700億ドル(107兆円)にのぼる。米国の株式と債券がともに売られても、ドルが買われる一因だ。こうした現象は極めてまれだ。

ドル高は原材料費の高騰や在庫の急増で傷んだ米国企業の収益をさらに圧迫する。JPモルガン・チェースは14日、融資の焦げ付きに備えて貸倒引当金を積み増したことにより、22年4~6月期決算が大幅減益になったと発表。財務強化のため、自社株買いの一時停止も表明した。同日の米株式市場では銀行株を中心に急落し、ダウ工業株30種平均の下落幅は一時600ドルを超えた。投資家の目は米国の不良債権に向かい始めている。

ドル建て社債の利回り急上昇

信用力の低い企業を中心に、新興国のドル調達にも影響が広がっている。インターコンチネンタル取引所(ICE)とバンク・オブ・アメリカが算出する新興アジア市場のハイイールド社債指数の利回りは13日、17.6%と09年4月以来の水準に上昇した。

中国の低格付け企業が発行するドル建て社債指数の利回りは28.8%と過去1年で18%も跳ね上がった。信用リスクを反映する米国債との利回り差(スプレッド)は26%に近く、リーマン・ショック並みの水準だ。

国際決済銀行(BIS)によると、新興国のドル建て債務(金融を除く)は21年末時点で4兆2400億ドルと過去2年で12%増加した。中国13%、韓国19%、台湾21%などの伸びが目立つ。

通貨危機時に資金を融通し合う「チェンマイ・イニシアチブ」など日中韓と東南アジア諸国連合(ASEAN)は金融の安全網を整備し、1990年代のアジア通貨危機の再来を懸念する声は聞かれない。しかし、もともとアジアにはインフレ率が低い国が多く、企業の価格転嫁が進みにくいという事情は共通する。今後、原材料価格の高騰で採算が悪化する企業が増えるとみられている。

日本株は円安に支えられて底堅いが、アジア企業同様、マージンの縮小が予想される。ドル独歩高に対する世界の懸念が深まり、ドル高抑制で各国が足並みをそろえれば、円高に反転し、株価が下落に転じる可能性もある。