国税当局は父親(被相続人)から賃貸マンションを相続した相続人(息子ら)が通達(路線価と固定資産税評価額)に基づいて評価した金額が実勢価格に比べて低すぎるとして、不動産鑑定評価で再評価し、追徴課税を行った。相続人側は争ったが、最高裁は国税当局の主張を認める判断をした。
そもそも相続税の納税義務は、被相続人の死亡によって初めて発生する相続人等の義務だ。相続発生前に、被相続人が不動産投資や相続税の節税を考えて金融機関から融資を受けて不動産を購入することは通常の経済活動で誰からも文句を言われる筋合いはない。
被相続人の取引により相続税の納税額が減少したとしても、多額の借金は相続人が返済しなければならない。相続税が減少するとしても、国税当局が口を出せることではないように思われる。
そう考えると、今回の事案は果たして租税負担の公平を害するような事案と言えるのだろうか。被相続人は借金をして、高額な不動産を買っただけだ。また、相続税を可能な限り少なくしたいと思っていたとしても、別に非難されるようなことではない。最高裁判決を突き詰めると、被相続人や相続人が専門家と相談して節税策を考えて行動することが許されなくなってしまう可能性がある。
今回、国税当局の「伝家の宝刀」とも呼ばれる財産評価基本通達の総則6項が適用された。著しく不適当と認められる場合にこの6項を使えるとされているが、同基本通達は財産(物)の評価方法を定めているだけで、具体的にどのようなケースを想定しているのかは分からない。暗号資産のように新しい財産が出現したわけでもない。ルール通りに手続きしたとしても、後出しじゃんけんのように、6項で否認されてしまえば、不動産取引をはじめ多くの経済取引を萎縮させる懸念がある。
最高裁判決は被相続人が多額の借り入れをして、不動産を購入した行為そのものを問題視した。しかし、相続税の納税義務も発生していない段階で、不動産購入を規制する法令はない。租税法律主義との関係は理解できないままだ。
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