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日銀総裁は生え抜きの起用を軸に調整が進む可能性が指摘されるが、副総裁人事も焦点となる。副総裁にリフレ派や女性が就くかは金融緩和の出口政策にも影響を与え、マーケットも左右しうる要素だ。
「政策より人事で自分の色を出すタイプ」――。官僚の間で聞く岸田文雄首相に関する評価だ。最近の中央省庁の幹部人事でも、続投が有力視された防衛省次官の交代がサプライズとなった。
重要だったのは、次官を退いた島田和久氏は安倍晋三氏の首相秘書官を務めるなど同氏と近かった点。安倍氏に近かった人物の影響力低下につながる人事が続くかに市場の関心は向かう。ただ、参院選の自民党大勝に「弔い」の要素もあったとすれば、そう単純な話になるとは限らない。
それは自民党役員人事にもいえる。例えば高市早苗自民党政調会長の去就だ。財政出動積極派でマーケットの耳目を集める存在だが、かねて交代説も聞かれてきた。だが、安倍氏と近かった高市氏は、安倍氏の死去でむしろ動かしにくくなったとの見方も一部にある。
中央省庁幹部、内閣・自民党役員に続く岸田人事の第3段階が、来年春の日銀正副総裁人事だ。国会の同意を得て内閣が任命する決まりになっている。総裁は、財務省OB(元財務官)の黒田東彦氏が10年務めた後になるため、日銀出身者になる可能性が指摘される。
名前が挙がるのは雨宮正佳副総裁とその前任、中曽宏大和総研理事長だ。雨宮氏は異次元金融緩和をはじめ過去四半世紀の金融政策の設計に深くかかわった。政界や官界の人脈も豊富だ。一方、金融システムや市場の危機管理の経験が長いのが中曽氏。主要中央銀行の市場動向調査担当の幹部が集う国際決済銀行(BIS)市場委員会で議長を務めたこともあり、海外とのパイプが太い。
好対照な2人だが、どちらが就いても、経済・物価情勢が改善すれば任期5年のどこかで異次元緩和の出口の模索が課題になり得る。金融政策に通じた雨宮氏が適任の仕事とされるが、中曽氏も2006年の量的緩和の幕引き作業を金融市場局長として担った。
2人の副総裁の人事も重みを持つ。「岸田内閣は総裁は手堅く日銀プロパー有力候補から選び、副総裁の方で一定の独自色を出すことを狙うかもしれない」とみずほ証券の上野泰也氏は話す。
ポイントは2つだ。
第1に金融緩和に積極的なリフレ派の起用があるか。今は若田部昌澄副総裁がリフレ派だが、首脳部に同様の人物が存在し続けるかは、緩和出口のタイミングや手法に影響する。リフレ派人脈は安倍氏との関係も深かった。次期日銀正副総裁が同氏の影響力を残した形で決まるかは、政官界や市場の関心事項になる。
第2は初の女性起用が実現するか。翁百合日本総合研究所理事長らの名前も挙がる。多様性を重視した布陣は民意の支持を広げ、緩和出口策などの円滑な遂行にプラスに働くかもしれない。ただ翁氏は日銀出身。総裁が日銀プロパーの場合、正副総裁3人のうち2人を日銀出身者が占めてしまう。政治サイドがそれをどう考えるかも焦点だ。


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