シンガポールの政府系ファンドなどがホテルや集合住宅を相次いで取得しており、2022年の投資額は3年ぶりの高水準となる可能性がある。歴史的な円安が背景で、日本の不動産投資信託(REIT)市場にも資金が流れ込んでいる。
シンガポールの投資ファンド、QIPは6月初旬に日本の大都市のマンションを投資対象としたファンドを組成し、第1弾として大阪と名古屋の3物件の取得を発表した。取得総額は4千万ドル(約54億円)で、首都圏なども含め追加投資の機会を探る。ピーター・ヤング最高経営責任者(CEO)は「ちょうど良いタイミングで円安になった」と手応えを口にする。
シンガポール勢では2月にGICが西武ホールディングス(HD)のホテル・レジャー31施設を約1500億円で、3月には大手上場ファンドのアスコット・レジデンス・トラストが大阪や福岡の賃貸住宅・学生寮を約100億円で取得すると発表した。
円はシンガポールドルに対して6月に1985年以来37年ぶりの安値をつける場面があり、タイバーツに対しても約15年ぶり安値圏で推移する。アジアの投資家は自国通貨や米ドルで資金を調達することが多いため、足元の歴史的な円安が、日本への投資拡大を後押ししている。
不動産サービス大手CBREによると、21年はアジア太平洋地域からの日本の不動産投資が25億ドルと、20年比で6.1%増えた。現時点で22年はGICなどの3案件だけで21年の投資総額の半分に達している。円安で対日投資がさらに勢いづけば19年の水準(42億ドル)に近づく可能性がある。
アジアなどの海外勢は日本のREITにも資金を振り向けている。東京証券取引所によると、海外勢の1~5月の買越額は約900億円。米REITに投資するETFから1~6月に12億ドル近い資金が流出したのと対照的だ。
(シンガポール=中野貴司、今堀祥和)

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