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学生時代と異なる環境への対応で奮闘するのは今も昔も同じだが、最近では3カ月後に疲労を訴えるケースが少なくない。ストレスや心の不調をどう乗り越えればいいのか。専門家に聞いた。
■睡眠重視で「夏うつ」回避 産業医・精神科医 奥田弘美氏
――「夏うつ」とは何でしょうか。
「自律神経の乱れからくる精神面の不調だ。暑すぎたり、室内と外の寒暖差が大きすぎたりすると、体温を一定に保つため自律神経に負担がかかる。不眠、倦怠(けんたい)感などの体の症状が夏バテで、精神面の不調を一般的に夏うつと呼ぶ。体の疲れが続くと、気持ちがめいる、集中力が下がるなどメンタル面に影響が出ることがある」
――不調にどう対応すればよいですか。
「早期発見、早期治療が原則だ。睡眠に不調が出る際は要注意だ。眠れない状態が1週間以上続けば、心療内科など専門家に相談すべきだ」
――予防はできますか。
「睡眠と食事をとることだ。まずはしっかり寝る。『少しぐらい夜更かしをしても大丈夫だろう』という学生時代の認識は捨てる。食事は肉や魚などのたんぱく質と、野菜や果物のビタミン、炭水化物のそろった食事を少なくとも日に2食はとる。良い体調で仕事に臨むと生産性も上がる。体調管理も仕事の一部だ」
――仕事内容や人間関係に悩む声も聞きます。
「仕事の現実が見えてきた証しだ。給料をもらって労働を提供することには、興味のない仕事をすることまで含まれる。楽しくない、つまらないと決めつけずにいかに意味を見つけていけるかが問われる」
「悩みがあっても、ストレスが高く体調が悪いときには転職などの大きな決断をしない方がよい。脳が疲れていると視野が狭くなり正しい判断ができないからだ。まずは体の回復だ」
「リモートワークでは上司の人間性や感情の機微が見えにくく、相談できずに仕事の悩みを抱え込みやすい。新人の特権は、失敗したり頼ったりしても許されることだ。気負いなくいろいろ試すチャンスと前向きに捉えてほしい」
■「目立つこと」を恐れない 金沢大学融合研究域教授 金間大介氏
イノベーション論を研究する金沢大学融合研究域の金間大介教授は、いまの新入社員は周りから求められる「いい子」像を演じてしまう「いい子症候群」と分析する。
――「いい子症候群」の特徴を教えてください。
「素直でまじめで協調性がある。言われた仕事はきっちりこなすが、自分の意見を言わず、質問をしない。他人の目が気になり、人前で褒められるなど目立つことを過度に怖がる。チームワークや協調性が重視されるゆとり教育を受けた世代が該当する」
――「いい子」を演じてしまうのはなぜですか。
「最大の要因は他人の目が気になるからだ。ただ、その同調圧力は周りのせいだろうか。自分や周りに対して、自分こそが圧力をかけていないだろうかを問うてみるとよいだろう」
――彼らが社会に出てつまずくポイントは。
「マニュアル通りの受け答えができ、そつなく仕事をこなすので『今年の新人は優秀だ』とはじめは言われるだろう。だが企業が求めるのは受け身の姿勢ではなく主体的に何かを生み出すことだ。今までの『いい子』のままでは評価されない可能性が高い」
――主体的に仕事をするためには。
「自分の好奇心を満たして満足感を得る内的報酬を意識することだ。モチベーションの源泉には表彰や昇給など他人からの評価を求める外的報酬と、好奇心など自分の満足感を満たす内的報酬がある。主体性を発揮するには、内的報酬を満たすことをするのがよい」
「いい子症候群の若者は内的報酬から得る満足感よりも、主体性を発揮したときに浮いてしまう恐怖心が勝ってしまう。他人には見えない形で、自分の興味がある本を読んだり調べたりメモをとったりして少しずつ形にするのがよい」
「目立つことは怖いかもしれない。ただ、人と違うことこそが強みになる。イノベーションの研究では、人と違えば違うほど新しいものを生み出すことができるといわれている」
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