京王電鉄社長、沿線を再開発「新宿を国際観光拠点に」

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新型コロナウイルス禍で落ち込んだ鉄道輸送人員は元の水準には戻らないと判断した。2021年度の連結決算は運輸業が26億円の営業赤字だったが、不動産業は104億円の営業黒字だった。不動産事業をいかに収益の柱に育てるか。6月29日付で社長に就任した都村智史氏に展望を聞いた。

 

居住者の生活様式に合わせた街づくりを推進

――鉄道需要が戻らない前提のなか、どのように収益を上げますか。

「不動産の果たす役割は大きい。新型コロナ禍で沿線居住者の生活様式が変わった今、自宅に近接したエリアの回遊性を高める街づくりが重要になる。線路の高架化など投資を急ぐ」

「笹塚駅―仙川駅の間(約7.2キロメートル)を高架化することで相当な区間でスペースができる。単にテナントを誘致するだけではなく、生活支援のメニューを整備したり、緑を多くして散策を楽しめるようにしたりするなど、周辺の住宅価値が高まるような取り組みも考えていきたい」

――整備を進める沿線各地の特徴は。

「同じ京王沿線でも居住者の特徴がエリアごとに変わってきた。例えば調布は若い世代の人口流入が進んでおり、世代の裾野が広くなった。まとまった社有地を活用し、住宅開発を中心とした多世代共生型の街づくりに取り組む」

「1960~70年代後半に大規模分譲した多摩ニュータウンは住民の高齢化が進んでいるが、郊外の価値が見直されつつある。自然が多く、歩道と車道を区分する『歩車分離』も進み、子育てには最適な環境だ。自治体とも連携して既存の住棟を再生するような形になるだろう」

新宿に過去最大規模の投資を

――新宿駅周辺の再開発は。

「ホテルやオフィスの入る複合ビルや商業施設を新設する。今回の再開発は京王プラザホテルを開業した71年以降、当社が新宿に投資してきた額を上回る規模になるだろう。歩行者動線を確保して回遊性を高めるほか、ハイラグジュアリーなホテルもつくり国際観光拠点とする。現在の新宿は起業支援の拠点としての役割が薄いので、そういった機能も育ってくれればいい」

「弊社の象徴的ビルである京王百貨店新宿店も建て替える。競争力を保つには今の業態のままでは厳しい。施設内の全てではないが、コンテンツが順次入れ替わる、やや期間の長い限定店のような形にならざるを得ない。あくまで京王百貨店側が主体的に考えることだが、投資に見合う業態を判断する必要がある」

パンデミック前提の戦略を練り直す

――不動産業以外の展望はどうみますか。

「21年度の鉄道の輸送人員はコロナ前の18年度に比べて26%減だった。足元では約18%減まで回復しており、22年度は20%減ほどとみている。たとえホテル業や百貨店業での需要回復が鈍くても、輸送人員のマイナス幅が20%台中盤ぐらいであれば、22年度も利益を出せると考える」

「京王プラザホテルの足元の稼働率は40~50%だ。22年度中の急回復は難しく、ホテル業で黒字に転換するのは24年度になるだろう。新型コロナの感染拡大前は海外からの顧客が全体の約8割を占めており、最も狭い部屋でも1泊2万円超の高単価で予約が入っていた。またパンデミックが起きるという前提に立ち、国内客にも満足してもらえるよう、いま一度戦略を練り直す必要がある」