https://www.nikkei.com/article/DGKKZO62549580S2A710C2EE9000
7日に1次入札の締め切りを迎えた政府保有の大型ビルの取引には10社強が参加した。日本は超低金利で、借り入れコストを考慮した不動産の投資利回りが世界的にも高い。円安で購買力が増している海外投資家は年1兆円規模の投資を見込む。低金利下の運用難に悩む国内投資家の関心も増している。
売却対象は東京・大手町の複合ビル「大手町プレイス」のうち、イーストタワーを中心とする政府保有分だ。旧逓信総合博物館などがあった区域に2018年に完成したビルで、国有地を再開発後に売却する手法は初となる。政府の委託を受けたみずほ信託銀行が売却手続きを進めており、共同購入者の有無や購入後の管理方針などをまとめた企画書の提出は7日が期限だった。
企画書は10社強が提出した。この段階では金額の提示は不要だが、立地や周辺の賃料相場などから3000億円規模が見込まれる。国内の完成済みのビルの取引額の過去最高は21年の東京・汐留の「電通本社ビル」の推定約3000億円で、今回はこれを超える可能性がある。売り手側は各候補の審査を経て9月に最終入札を実施し、購入者を決める。
買い手候補で目立つのが海外投資家で、米ゴールドマン・サックスや米ブラックストーンなどが参加している。日本国内は超低金利で、東京の不動産は借り入れコストを考慮した投資利回りがシンガポールや香港よりも高いとされる。
さらに足元では円安が進行し、海外投資家は従来に比べて割安に不動産を購入できるようになっている。5月末にも香港のガウ・キャピタル・パートナーズの運営するファンドが東京や名古屋などの賃貸マンション32棟を取得した。ファンドの出資者はカタール政府系のカタール投資庁で、国内不動産への大規模投資は初とみられる。
不動産サービス大手CBREによると、円安局面の07年や14年には海外勢による不動産購入が急増した。21年までの5年間の平均購入額は1兆円強。CBREは22年も1兆円規模の投資が続くと予想する。
大手町プレイスの入札は国内勢の関心も高く、三菱地所系の運用会社や不動産大手ヒューリックなどが参加している。これまで資金力のある海外勢に押され、思うように投資できていなかった国内投資家は多い。足元で金融市場が不安定となるなか、上場株や債券などに代わるオルタナティブ(代替)資産に、資金を分散させる狙いがある。
これまでの不動産取引を支えてきたのは国内銀行による融資だ。日銀によると、不動産業向け貸出残高は22年3月末時点で92兆円で、過去4年間で12兆円(16%)増えた。ここ1年ほどは残高の増加率が再び上昇している。不動産投資の需要が高まるなか、銀行側もなじみが深い不動産に対して前向きな融資姿勢を維持している。
もっとも、足元では海外の利上げの影響で、日本でも金利が上昇するとの懸念が急速に高まっている。CBREが4~5月に銀行やリース会社などに実施したアンケートによると、融資元として今後1年間の最大の懸念材料として「金利上昇」との回答が3割強にのぼり、前年の4%から急上昇した。
将来の利払い負担が増えても、その分賃料を引き上げれば収益は維持できる。だが東京都心のオフィスビルはリモートワークの定着や大型ビルの相次ぐ完成で空室が増え、賃料引き上げは難しくなっている。ほかの投資商品と比べた不動産の優位性が薄れれば市況は崩れかねず、先行きには危うさが漂っている。


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