インフレ鈍化、市場は材料探しに躍起(NY特急便)

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12日の米株式市場でダウ工業株30種平均は3日続落し、前日比192ドル安の3万981ドルで終えた。6月の消費者物価指数(CPI)の発表を翌日に控え、インフレ警戒の売りがみられた。前年同月比の伸び率で8.6パーセントと約40年半ぶりの高水準になった5月のサプライズから1カ月。将来的なインフレ抑制を見込む市場は予想を裏付ける材料を探し、安心を得ようと必死だ。

ダウ・ジョーンズまとめの市場予測は前年同月比8.8%の上昇だ。5月を上回る見通しだが、市場は構成要素に鈍化の兆しを見いだそうとしている。CPIの約3割を占める住居費について、米ゴールドマン・サックスのヤン・ハチウス氏は12日のリポートで、同社が複数の民間不動産会社の数字を集計した予測を根拠に「伸びが鈍る」と予測した。

非耐久財の在庫増にも注目する。小売り大手ウォルマートやターゲットの販売量に対する在庫の割合は、新型コロナウイルスの感染拡大前を大きく上回る。「近々、在庫消化のための値引きが増える」(ハチウス氏)。衣料品では前月比1%の下落を見込む。

米ナショナル・セキュリティーズのアート・ホーガン氏は「インフレは今後1~2カ月、高止まりしてから、予想より早く収束が進むだろう」と楽観視する。テック企業のリストラ加速で賃金上昇圧力が弱まっていることなどを理由に挙げた。11日には電気自動車(EV)の米リヴィアン・オートモーティブが約5%の人員削減を計画していると報じられた。

「(金融引き締めを急ぐ)米連邦準備理事会(FRB)は間違いを犯している。金属も原油も直近で大きく値崩れしている」。米運用会社、アーク・インベストメント・マネジメントを率いるキャシー・ウッド氏は12日に開いたウェビナーで、インフレは落ち着くとの持論を繰り返した。

国連食糧農業機関(FAO)によると、6月の食料価格指数は前月比で2.3%下落し、3カ月連続で前月を下回った。こうした材料を集めればインフレ鈍化は合理的なシナリオだ。

それでも実際はFRBや市場の期待を裏切り、しつこいインフレが続いてきた。「厄介なシグナルが見える」。ドイツ銀行のジャスティン・ワイドナー氏は、物価上昇の要因が徐々に「需要側に寄ってきている」と指摘する。交通運賃の上昇などが物価を押し上げ、6月のCPIは前年同月比9%上昇の大台に乗るとみる。

市場による今後10年間の物価見通しを示す期待インフレ率(ブレークイーブン・インフレ率)は11日時点で2.3%と、4月をピークに低下してきた。市場がインフレ鈍化を織り込むなか「6月のCPIが予想より跳ね上がれば、相場は神経質な展開をみせるだろう」(英資産運用会社ハーグリーブズ・ランズダウンのスザンナ・ストリーター氏)

「非常に高水準となるだろうが、6月の数字は既に時代遅れだ」。ジャンピエール大統領報道官はこのほど記者会見で強調した。予想外のインフレで政権に批判が寄せられるのを見越し、先手を打った。12日の市場ではインフレ鈍化の材料が浮上するなか、ダウ平均は取引終了間際にかけて下げ幅を広げた。インフレ警戒は現在進行形だ。