https://www.nikkei.com/article/DGKKZO62414090X00C22A7TEC000/
エンジニアの人手不足が深刻なIT(情報技術)業界で、女性人材の才能発掘や育成を始める企業が増えている。
メルカリは社外向け育成プログラムで人材を獲得し、SHIFTは未経験者の採用を広げる。7割の企業がIT人材不足を訴えるが、理系の女性比率は2割となり手は少ない。心理的な壁を壊すとともに、賃金格差解消や働き方改革も欠かせない。
「お気に入りを保存して、後で価格比較できる機能が欲しい」。5月末、メルカリの幹部にフリマアプリの新機能を提案する「ハッカソン」が開かれた。オンラインで提案を披露したのは女子大学生ら中心の約20組のチーム。女性や性的少数派を対象にした育成プログラムの集大成だ。国内外の約90人が、社員とともに約3週間、ソフト開発の基礎を学んだ。
メルカリの女性社員比率は32%だが、中核のエンジニアに限っては「さらに少ない」(同社)。多様性を推進するため2020年に社外向けの育成企画を立ち上げた。提案者は当時新入社員だった野上和加奈さん。工学部にいた学生時代から男性が多い環境だったため、「目立ちたくなくて萎縮していた。学生に女性エンジニアのロールモデルに触れる機会をつくりたかった」と話す。
採用にもつながっている。江川友里絵さんは文系学部在学中にエンジニアを志し、プログラミングを自習して21年にメルカリの企画に参加した。以前から日本企業主催のインターンやイベントに行くと常に女性が数人しかいないことに違和感を抱いていた。「いつもマイノリティーだったが、同性しかいない環境で窮屈感なく話せて競争心が増した」と明かす。
江川さんはインターン経由で22年にメルカリに入社した。配送関連のシステムを担当し、多様性支援などの社内プログラムにも参加している。育成企画の経験者からこれまでに12人の採用内定者が出た。
ITエンジニアは、特に女性比率が小さい職種の一つだ。大手中心の情報サービス産業協会の調査では19年の女性比率が20%だった。日本では、そもそも大学でSTEM(科学、技術、工学、数学)分野に進学する女性が少ない課題がある。日本でSTEM分野を専攻する女性の割合は17%と、平均を15ポイント下回り経済協力開発機構(OECD)で最も低い。
OECDの学習到達度調査では日本の女子学生の成績は数学7位、科学6位と男子学生と同様に上位だった。「女子に理系は不向き」といった先入観や職種ごとの性別の偏りが理系進学を阻んでいる面がある。
総務省によるとデジタルトランスフォーメーション(DX)を進める課題として日本企業の68%が「人材不足」を挙げ、米国(27%)やドイツ(51%)より高い。ITエンジニアの獲得競争は激しく、企業の目は未経験者の採用に向いている。
ソフトの品質検査を手掛けるSHIFTは21年8月期に80人、22年8月期は100人超をアパレル、事務系など非IT業界出身の「未経験エンジニア」として採用する。男性と女性の内訳はほぼ同数の見通しだ。
採用選考では独自開発した検定試験を使って、エンジニアとしての適性を見極める。指定の手順書を素早く理解して正しく作業を進める事務処理能力や論理力が必要で、合格率はわずか6%。合格率は男性も女性もほぼ同じで入社後に活躍する確率や昇進スピードにも性差はなかった。
SHIFTは「エンジニアといえば男性という先入観があるが、実際ポテンシャルに差はない。労働負荷軽減や出産後もキャリアを続けやすい仕組みをつくれば、自然と女性は増える」と話す。
米インディードの日本法人が男女のエンジニアに性別によるデメリットを尋ねたところ、男性は「勤務時間、業務量が多い」「休暇が取りにくい」といった勤務面の問題が目立った一方、女性は「昇進、昇給しにくい」「実力で評価されない」といった評価面の問題が上位を占めた。
米大手ITではマイクロソフトはサイバーセキュリティー分野の人材育成に向けて女子高校生や大学生を対象に支援する専門プログラムを提供する。政府や産業界で活躍する女性がトレーナーやメンターを担う。
米グーグルは教育関連の企業と連携し、インドで工学部に通う女子学生向けに、体験型を含む2年間の育成プログラムや奨学金を支給する。米アマゾン・ウェブ・サービスは、12~13歳の少女を対象にアプリ開発などの体験プログラムを提供している。


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